百鬼夜行?あのカーニバルみたいなやつだよね?

1.ザ・怪談と座談会

九月、季節で言えば秋だろう。


・・・二十八度。


「暑い・・・」


進は九月上旬になっても居座る夏の暑さに目を覚まさせられた。


二十三時過ぎまで沙由香と人を襲う妖怪を追って町中を走り回っていたせいで疲れているというのに、自然の無秩序で残酷な嫌がらせにより眠れずにいた。


小さい頃から歩くのが怖かった継ぎ接ぎの縁側を歩いて、台所で水を一杯飲んで部屋に戻る途中、懐かしい悪寒おかんを進の頬を掠めた。


「ん?」


妖気?進は座敷童子でもミツでも無い、謎の妖気で我が家が包まれているのに気がついた。


それは、不自然極まりない事だった。


進の代々続く封化師が何年も住まうこの土地、この家を10年前から包む妖怪の侵入を防ぐ結界によって進が入ることを許可した妖怪以外が立ち入ることは決して可能でない。


「どうして?」


考えを巡らせながら縁側を一直線で歩くその瞬間だった。


バッバッバッバッバッバッと勢いよく障子を埋めるほどの無数の手が障子を貫いて飛び出して来たのだ。


一瞬、進はビクンッと驚いたものの、昔の記憶を掻き分けるように考え込むと何かに気がついたと言わんばかりに、その一つ一つに丁寧に握手をしだした。


一つ一つしっかり、ガッチリと握手を交わすこと五分。


全ての手と握手し終えると障子がサーーッと風をきるように左右に分断された、普段無い井戸が庭の中央でセンターを陣取ったアイドルの如くあらぬ方向からスポットライトを浴びながらスーーッと一人の女が伸びて来た。


「1枚~。」


「2枚~。3枚~。4枚~~。」


進は、五歳の頃の記憶をフラッシュバックさせながら涙ぐんでいる。


それを見た女は嬉しそうに笑うと、皿の枚数を数えるのが面倒になって来たらしく、リズミカルに数える枚数をしょり始めた。


「5枚、6枚、7枚、は~~~ち~~ま~い~~。」


9枚目を数えたところでお決まりのセリフが来るのを進は温かい想いで待ち望んでいると、普通に10枚目も女は数えきった。


これでは、お菊の皿が成立しない。


「あっ」と女はうっかり数え終えると、その10枚目の皿を自分の出て来た井戸の縁でパリーンと割り切ると進を見つめて、スーーッと消えた。


その瞬間、進の目の前に現れてそれを進も分かっていたように何の躊躇も無く強く抱きしめ合った。


「進くん!進く~~ん!!見ないうちに大きくなったねーー!」


「お菊さんこそ!相変わらず、皿の数数えるの面倒くさがりますね!本当にお久しぶりです!」


お菊は涙目になった目をこすると、長い間あっていなかった、玄内家25代目当主の頭を撫でた。その後、ニコリと笑うと白装束の袖を振り回す勢いで進の頭を撫で回した。


「いやーーーん!チョーー懐かしい!コレよね!この感触!」


成されるがままに進は撫で回されながら、懐かしさに浸る。


すると、座敷童子とミツが居間とトイレのドアを開き進に叫んだ。


「浮気者!!!」


座敷童子は、スタスタと進に絡まるように掴むと、白いワイシャツ一枚という格好を無視して進の手を自分のお腹にくっ付けて自分の私物と言わんばかりにお菊を下から睨む。


お菊がそれに気づくと、座敷童子の頬っぺたを両手挟んで叫んだ。


「何!?この子!べらぼうにラブリーなんだけど~~!!」


予想外の反応に座敷童子はあわわわわと慌て始めた。


トイレのドアにもたれ掛かってミツは鼻で笑う。


「お菊と無数の手!何であんた達が戻って来たか説明してくれないかしら。」


いつに無くミツの口調がしっかりとしている。


進はミツが他の妖怪達の前ではクールビューティなリーダーのような態度を昔とっていた事を思い出した。


「俺の前では、あんなに気の抜けた態度をとっていた癖に。」という言葉を空気を濁さないようにその言葉を進は喉元で止めた。


すると、お菊が突然落ち着いた態度になって話し出した。


「おミツさん、それはココの結界の効果が変化したからよ。」


「変化・・・ですか?」


ミツが顔を曇らせた。


「十年前、千次鬼封印戦の前夜。私たちへのとばっちりを減らすように、玄内幻也は直属の妖怪や使い魔以外をこの土地から出て行くように指示したわ。しかも、私達すら入らないように、この土地が鬼の手に堕ちて、直前までいた妖怪達や進くんが無作為に狩られないように、とても強力な結界を彼は他の弟子や仲間と張ったの。その結界が最近になって突然、玄内家の了承を得ていた妖怪達の出入りを可能にするような元々張られていた結界の内容に書き換えられたから私達は一時的に顔を出したってわけですよ。」


千次鬼封印戦。


進は十年前、自分の参加が許されなかったその戦いの正式な名前を久しぶりに聞いて胸の中の後悔の念が渦を巻いた事に気付きながらも表情に出さないように奥歯を噛み締めた。


「そう。」


ミツは意外と素っ気ない表情で応答した。


「おミツさん、何があったか伺ってもいいかしら?」


お菊がその家の空気を吸うようにゆっくりと呼吸をしながらミツに約一週間前の出来事を問う。


ミツは進が留守中に起こった、ぬらりひょんの突然の来訪について事細かに説明した。


無数の手達はゆらゆらと空中で揺れていた動きを制止させ、お菊の顔は曇った。


一部始終を聞くと、お菊と手達は進に「またね!」と言って(無数の手は全力で手を振ってそれを表現し)進の家を後にした。


座敷童子は自分だけ千次鬼封印戦の話しに着いて行ききれてなかった事に僅かの悔しさを滲ませたように押入れの下の段でぬらりひょんの来た時の話しを聞いて、その日のことを思い出していた。


ミツと進はとりあえずは、現在の時点では何も出来ることは無いという結論に達して寝床に着いた。


その次の日の夜、朝から座敷童子の姿が見えなかったが、散歩か野良猫とでも戯れているのだろうと進は特に気にしてもいなかった。


次の日の予習を終わらせて、のんびりと固まった首から肩甲骨にかけてを伸ばすと勢いよく扉が開いた。


「進さん!ビデオを見ましょう!!!」


そこには、元気ハツラツとした座敷童子が満面の笑みで息を上がらしていた。


座敷童子に引っ張られるがままにテレビのある畳のある居間に連れてこられた。


そこには、既に沙由香とテレビ電話中継のミツが座していた。


「どうしたんだよ、みんな揃って」


「いや、座敷童子が面白いビデオを手に入れたからって珍しく私の家に誘いに来たのよ」


どんなに人懐っこく甘え上手な座敷童子でも今の妖怪を好きではないけど別に・・・という内心の沙由香に対してズカズカと可憐道家の敷地内への出入りを避けていたはずの座敷童子、だからこそ自分から沙由香をビデオ鑑賞会に誘うのは珍しいと進は思った。


「みなさん!みなさん!テレビに注目ですよ!私が忙しいのに時間を割いて一生懸命にぼったくりリサイクルショップと対決して手に入れた代物しろものなんですからー!」


「えっちなデーブイデーじゃないですよね?」


ミツは座敷童子が盛り上げるのに水を差した。


「・・・違いますよ!!」


「えっ!?なんで、座敷童子!少し間があったんだ?」


「進くんの趣味にちゃんと沿ったものなの?もしかして・・・激しいゴニョゴニョが・・・!?」


進と沙由香も一斉に動揺し始めた。


「はぁ~~~!違いますよ!そもそも、DVDじゃないですもん!ビデオです!!ミツさんは、黙ってて下さい!」


最近、使われていなかった年季の入ったビデオデッキがビデオの再生準備を音を立てながら始めだした。


巻き取りが終わってビデオの再生準備が整ったが座敷童子が固まった。


「あれ?再生されない?」


とっさに進がフォローに入った。


「ビデオだから入力切替をしないと、再生されないんだよ」


「うーーーーーん」


座敷童子が考え込んだ後に一拍置いて進に可愛い声でおねだりしたた。


「進先輩、やって?」


なんで、普段からDVDばかり使っているせいでビデオデッキの操作に慣れてない座敷童子ってどうなんだよっと思いながらもリモコンひとつで入力切替をこなすと突然砂嵐が画面を覆い、反射的に進はリモコンで音量を下げた。


突然砂嵐が消えて青白い画面が出て来た。


「ん?ホラー映画かなんか?」


すると、勢いで腕を持っていかれると言わんばかりのタックルを左上半身に受けた。


「んぐはっ!」


沙由香がビクつきながら進の腕を抱きしめながら怯えている。


「私・・・!!こういうの・・・苦手なのよ!」


「封化師としてどうなんだよ、いつも本物とやり合ってる癖に。」


すると、画面の音量がリモコンを操作していないのに上がり、気味の悪い(ベタな)音楽に変わった。


ミツが呆れたように欠伸をした。


すると、画面に井戸が現れた。


「こわーーい!進先輩!」


座敷童子も進のもう片方に潜り込んで来た。


「座敷童子、何のビデオ入れたんだよ」


「呪いのビデオですよ!」


「・・・・・・・・へ?」


一同が固まった。


勿論、顔を長い髪で隠した白い着物を着た女が出てくる。


ゆっくり、ゆっくりと画面に近づいて来る。


ぬるい風を居間に吹き、沙由香がマジで 泣きそうになって進の腕を締め付けて胸やら股やらの感覚をもろに受けた進の心拍数が異常に上がる。


テレビの縁に手をかけて、ヌルリとテレビから顔を出して進の前に真っ直ぐ向かって来る。


数十センチ、数ミリ、と女が近づいて来るのを見て沙由香は下を向いて塞ぎ込んでいる。


進は真顔でリモコンの電源オフボタンを押して、消えない事に一瞬ムカつきながらもポケットから光るものを手にして女の輪郭を触って顔の部位の位置を予測するとパッサリと顔を隠していた髪を散髪用のハサミで切った。


「キャァ!」っと、乙女のような声をあげて顔を女は手で覆うと再び前髪が一瞬で伸びて安心したように手を外す。


すると、また進は前髪をパッサリと切る。


また、「キャァ!」っと声をあげて顔を見せないように両手で隠すと前髪が伸びる。


原理が分からないという風に進は思考をよぎらせるともう一度髪をハサミで切った。


そんな動作を繰り返し、その間隔が物凄く早くなっていくと進は床を見る。


「おい、女!貞子って事でいいのか分からねーから後で名乗れよ!お前の真下が髪の毛だらけになったぞ?どう、責任とってくれるんだよ?」


「・・・え?」


うめきにも聞こえるその声の主を引っ張ると隣の部屋に女[貞子(仮)]の腕を掴んで隣の部屋に連れ込み座敷童子と沙由香と分断するようにふすまを威勢の良い音を立てて閉める。


進は女を押し倒し片手で女の両手首をしっかり拘束すると女に乗り上がった。


「身体で払ってもらおうか?」


女はされるがままに、もうなす素手なしとままに黙っている。


進がニヤリと笑うとその数十秒後。


「イヤーーーーーーーーーーアン」


襖の奥で何が起こっているのか、我に帰った座敷童子と沙由香が襖の向こうでバタバタという音と色んな格闘を影だけで見守っていた。


「たまに・・・進くんって凄くドSな行動に走り出すよね」


「沙由香さんに、私も同意しますよ」


静かになると、二人は恐る恐る襖を開けた。


そこには、白い肌を覗かす乱れた白い着物を着た半泣き状態の美少女に床ドン姿勢で半ギレの進がいた。


「次、髪伸ばしたら分かってるよねぇ?」


無言で何度も頭を縦に振る女を許したかのように手を離し女を座らせた。


沙由香と座敷童子はさっきまでビビっていた事などほっといて、テレビから出て来た女に少し同情した。






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