80 エピローグ
ベッドの中で夏樹が背後から久志に抱きしめられている。
事後の甘い雰囲気があってもよさそうなものなのに、なぜか夏樹の表情は不機嫌そのものだ。
「夏樹、こっちを向いてくれないか?」
「…………イヤです」
「夏樹?」
「だって俺、やめてって言ったのに……まさかお風呂場でも……」
「それは君が可愛すぎるのが悪い」
久志の言い分に夏樹が言葉を失う。
一応、夏樹に断ったとはいえ、久志は思いきり中で出してしまった。
何もかも初めてなのに、どうやって中に出されたものを処理すればいいのか夏樹にわかるはずもなく、風呂場で久志に掻き出してもらった。
その際、うっかり感じてしまった夏樹に欲情した久志が「こうやった方が効率よく掻き出せるから」と言って、風呂場で二ラウンド目をいたしてしまったのだ。
「夏樹」
「知りません」
「すまない、悪かった。だから、こっちを向いてくれないだろうか」
「…………」
「夏樹?」
久志の腕の中で夏樹が体の向きを変える。
「それじゃあ、許してあげます」
「夏樹――」
「――そのかわり……」
久志の胸元で顔を上げた夏樹が、じっと久志の目を見つめた。
「……久志さんの初恋の相手が誰なのか教えてください」
「――――え?」
「芹澤さんが言ってました。初恋の相手に告白するんでしょう?」
さあ、と言って夏樹が久志の目を見つめる。
「あー、そのことだが……今さらというか……君、本当は分かっているんだろう?」
困ったように眉尻を下げる久志の顔を見ながら「この人は肝心なところでは照れるんだ」と夏樹は思った。
「きちんと久志さんの言葉で聞きたいんです」
「……夏樹」
「久志さん」
久志は夏樹の頭を胸元に抱え込んだ。
「えー、あまり何度も言うことではないから、一度しか言わない」
好きだ、愛してると挨拶のように日頃夏樹に言っているくせに矛盾している。
「――夏樹、初めて君と出会った二十年前から、ずっと好きだ……だから、これからの二十年……いや、ずっと私とともに過ごしてくれないだろうか――夏樹、好きだ、愛してる。君なしでは私の世界は色のないモノトーンの世界……」
「……ちょ、もういいです。わかりましたから、口を閉じてください」
放っておいたらいつまでも喋り続ける久志の口を夏樹が手で押さえた。その手を頬へ滑らせ、久志の顔を両手で包み込む。
「はい、俺でよければ。久志さん、俺とずっと一緒にいてください――後悔させないでくださいね」
夏樹はそう言うと、今度は唇で甘い言葉ばかりを紡ぎ出す男の口をそっと塞いだ。
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