70 俺の意思じゃないですから!3

 間もなくタクシーは久志のマンションの前に到着した。


「お疲れ様でした。あの」

「――?」

「もしまた夜中に熱が高くなるようでしたら、脇の下とか足の付け根を冷やすといいですよ」

「……ああ、ありがとう」


 久志は親切なタクシードライバー岩永へ礼を言うと、夏樹を横抱きにしてマンションの中へと姿を消した。


「早く良くなるといいですね。息子さん」


 岩永は子供思いの父親の背中を見送り、その場を走り去った。




「さあ夏樹、着いたよ」


 自宅へ到着した久志は、真っ直ぐ自分の寝室へ行くと、夏樹をベッドへそっと下ろした。


「ん……っ」

「夏樹?」


 夏樹を寝かせて、そのまま離れようとした久志だったが、久志の首に夏樹がしがみついているため離れることができない。


「夏樹、離しなさい」

「……いや……だ、久志さん、行かないで」


 いやいやと首を横に振りながら夏樹が久志に抱きつく。


「――夏樹? 君、本当に熱があるんじゃないか?」


 夏樹の体が異常に熱い。

 薬の副作用かもしれない。久志はさっきの親切なタクシードライバーの言葉を思い出した。


「確か脇の下と足の付け根を冷やせばよかったな。夏樹、悪いが少し離れるよ」

「やっ、久志さん」


 必死で取り縋ろうとする夏樹の腕をやんわりと外し、久志は冷凍庫から保冷剤や氷を持ってくると、ベッドに腰掛けた。


「まさか、ここで役にたつとは思わなかったな」


 久志が夏樹の腕を上げる。そして、着ぐるみのちょうど脇にあたる部分に迷いなく手を突っ込んだ。


「んっ」

「うん。ちょうどいいな」

「久志さん? これ……?」

「ポケットだ。深めに作ってあるから、ここに保冷剤を入れよう」


 夏樹の着ぐるみ姿は絶対に可愛いに違いない。

 いかにその可愛らしい姿のままで夏樹と愛し合うことができるか、久志は野添と何度も打ち合わせを重ね、着ぐるみの色んな場所に隠しポケットを作らせたのだ。


 久志がポケットに手を突っ込んで夏樹の体に触れた際、肌触りはもちろんだが久志の手の感触もちゃんと夏樹に伝わらなければならない。そのため、ポケットの内側の生地にもかなりこだわった。

 結果、着ぐるみは久志にとって、これ以上ないくらいの会心の出来となった。


「さあ、夏樹。こっちの腕も上げて」


 久志の手によって、夏樹の両脇に保冷剤が挟まれた。


「気持ちいいか?」


 傍らに座り、そっと夏樹の頬を撫でる久志に夏樹が小さく頷く。


「後は……足の付け根だったな」


 そう言うと、今度は夏樹の太腿あたりに久志は手を這わせた。


「確か、この辺りにあったはず……」

「あ……あっ、やっ」

「――――あった、ここか」


 一見ただの布地があるようにしか見えない所へ久志の手が入る。


「さすが野添くんだな、素晴らしい出来だ」

「ん……や、久志さん」

「――ん? 夏樹? これって……」


 さわさわと夏樹の下腹部をさまよっていた久志の手が、ある一点を掠めると、ぴたりと動きを止めた。

 臍よりも数センチ下、部分的に熱く熱をもち、形を変えている。

 おそらく最大サイズなのだろうが、そんなところまで小柄な夏樹のものは久志の手にすっぽりと収まってしまう。


 久志はそれの形を確かめるように、ゆっくりと手のひらを上下に動かしながら、夏樹の形を変えた部分を撫で摩った。


「や、あ、あ……あっ、ん」


 久志の手の動きに合わせるように、夏樹の腰が揺れる。


「夏樹、私の可愛い子リスさん」


 着ぐるみを着て、腰を揺らしながらモジモジと両膝を擦り合わせる夏樹の姿は、まるで初めての快感に戸惑う子供のようだ。

 夏樹はちゃんとした二十四歳の成人男性だ。そのことを久志も分かってはいるが、つい、いけないことをしている気分になってしまう。


 久志は足の付け根を冷やすという、最初の目的などすっかり忘れてしまい、夏樹の熱を追い立てるのに夢中になってしまった。

 夏樹の昂りは久志の手によって、ますます追い立てられ、先端にあたる下着の一部が湿り気を帯びてくる。


「あっ、ん、も……ダメ、あ、でるっ……」

「大丈夫だ。出してしまいなさい、私が受け止めてあげるから」

「ひさ、さ……んっ」


 下着越しに久志の大きな手に包まれたまま、ふるりと体を震わせて夏樹は熱を吐き出した。


「夏樹、可愛いよ」

「――――んっ」


 夏樹の目尻に浮かんだ涙を久志の唇が吸い取る。

 そんなちょっとしたことでさえ、今の状態の夏樹には堪らない快感になってしまうようで、熱を吐き出したばかりだというのに夏樹の昂りは全く衰えていない。


「どうしよう、久志さん……まだ、まだ……あんっ」

「夏樹」


 ここでやっと夏樹は薬の影響でこのような状態になっているのだと、久志は思い出した。


「大丈夫。君が楽になるまで付き合うよ」


 そう言って久志は夏樹の額に唇を寄せた。

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