21 流されたわけじゃない!3
朝、目が覚めたら目の前でものすごくいい男が自分を見つめて微笑んでいる。
中学三年生の時、同じクラスの三木くんに片想いした。
三木くんはカッコよくてクラスでも目立つ男の子だった。
すでにその頃には自分の性癖に気づいていた夏樹は、これまでの経験から自分の気持ちが相手に伝わってしまうと普通の友達付き合いでさえ難しくなってしまうのだと何となく察しており、恋をしてもいつも片想いで終わっていた。
だから目の前のいい男が夏樹の頬をそっと撫でても、それが現実のものではなくて、夢の中での出来事だと思った。
「――夏樹、おはよう」
男の手が頬から耳へと移り、耳朶を指先で優しく挟む。
「そろそろ起きないと遅刻するよ」
(起きたくありません)
夏樹は男の手を掴むと、その暖かい手のひらへ甘えるように頬擦りをした。
「……困ったな。そろそろ芹澤が来る時間なんだが」
(まだ眠いです。芹澤さんが来ても……芹澤……芹澤さん!?)
「――――!!」
一気に覚醒した夏樹が声にならない悲鳴をあげ、ものすごい勢いで上半身を起こした。
「やあ、目が覚めたようだね。おはよう、夏樹」
今、夏樹が両手でしっかりと握っているのは誰の手だ?
三木くんのものでないのは確かだ。実際に手を繋いだことはないが、想像なら飽きるほどした。
三木くんの手にしては大きすぎるし、どう見てもこれは十代の少年のものではない、大人の男の手だ。
夏樹は恐る恐る手首から肘、二の腕へと視線を移した。
「どうしたんだい?」
「――――!!」
手の持ち主を確認した夏樹の口から、本日二度目の悲鳴があがった。
「おはよう」
「……おはようございます……」
機嫌よさげな久志からの何度目になるかわからない朝の挨拶に、夏樹が反射的に答える。
「あ、あの、紺野さん……そこで何をやってるんでしょうか」
昨夜、夏樹はあの大きなソファで休んだはずだ。なのに何故自分は今、久志と同じベッドの中にいるのだろうか。
しかも隣で添い寝をしている久志は体になにも着けていない。
さっき勢いよく体を起こした際、捲れ上がった上掛けの隙間から夏樹は見てしまった。
ちらっとしか見えなかったが、凄かった。平常時のくせにどう見ても夏樹のマックスの時よりも大きかった。
「……じゃなくて! なっ、何で俺がここに寝てて、こっ、こっ、紺野さんが、は、裸なんですかっ!」
「…………」
「ちょっと、紺野さん。何で黙ってるんですか」
夏樹の叫びが聞こえているはずなのに、久志は夏樹から目を逸らせたまま何も答えない。
「紺野さん! 聞こえてるんでしょう!?」
「…………」
何度目かの夏樹からの呼び掛けに、やっと目だけをちらりと夏樹に向けたがまたすぐに逸らせてしまう。
「ちょ、紺野さん! 無視しないでください……っ、うわっ」
突然のそりと体を起こした久志が夏樹をベッドへ組敷いた。
「全く……君は何度言ったら分かるんだい。そんなに私の気を引きたいの?」
「へっ? こ、紺野、さんっ?」
「だから違うって」
そう言いながら久志が夏樹の首筋へ顔を埋めた。自然、二人の体も密着する。
「あの……紺野、さん?」
当たってるんですが、ナニが。
夏樹の気のせいでなければ、自分の太股にくっついている久志のモノが徐々に硬くなってきている。
「ひ さ し」
完全に質量を増したモノを、久志はさらにぐいっと夏樹の太股に押し付けた。
「ひっ、ひっ、ひっ……ひさ、っ……」
なかなかしゃっくりが止まらないのか、出産時の呼吸法なのか、夏樹はよくわからない過呼吸のような状態になってしまった。
「ほら、落ち着きなさい」
いや、落ち着けというなら、その立派に育ったモノを俺の太股から離してください。
そう心の中でいくら訴えても久志に夏樹の声は届かない。
そうこうしていると、何の前触れもなく寝室のドアが開き、芹澤が顔を出した。
「久志さん、おはようございます……あ、失礼しました」
時間になっても寝室から出てこない久志を起こすためにやって来た芹澤が、ベッドの上の二人の様子を見ると顔だけ出してまたすぐに出ていってしまった。
「え? ええっ? 芹澤さん!?」
芹澤の出現に、やっと夏樹の思考回路が正常に動き出す。
「ちょ、違います! 待って、これは誤解で……っん」
これは誤解だと訴えようとする夏樹の唇を久志の唇が覆う。
久志との同居最初の朝は、夏樹がこれまで経験したことのない濃ゆい目覚めとなった。
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