叩けば直る

 ある日、父がテレビに向かってブツブツと文句を言っていた。

「くそ、このポンコツめ。これじゃあまともに野球中継が見られないじゃないか」

 どうやら、テレビの調子がいつもより悪いらしい。

「そろそろ、新しいのに買い替えたら?」

 僕がさりげなく声をかけると、父は首を横に振った。

「いや、こういうものはこうすれば直る」

 そうきっぱりと返すと、父は乱暴な手つきでテレビをバシバシと叩き始めた。

「ちょっと、そんなことをしたら……」

 僕が心配した直後、今までノイズが走っていたテレビに鮮明な映像が映し出された。

 こんな直し方もあるのかあ。

 僕は、半信半疑ながらもすごいなあと思った。


 ある日、母が電子レンジに向かって困り顔を作っていた。

「おかしいわねえ。やっぱり古いのがいけないのかしら」

 どうやら、電子レンジがまともに動いてくれないらしい。

「そろそろ、新しいのに買い替えたら?」

 僕が呆れ顔で呟くと、母は笑いながらこう言った。

「大丈夫よ。こういうものは、こうすれば直るから」

 そして、母は手刀を作って電子レンジの側面をバシバシと叩き始めた。

「ちょっと、流石にそこまでやったら……」

 僕の額に冷や汗が浮かんだ頃、電子レンジは「ブオーン」と音を立てながら動き始めた。

 この直し方、やっぱり効果があるんだなあ。

 僕は、心の底からすごいなあと思った。


 ある日、姉が机に向かって眉間にしわを寄せていた。

「うーん。やっぱり難しいわ。こんなの、覚えられっこないわ」

 どうやら、学校のテスト勉強に苦しんでいるらしい。

「ねえ。僕がどうにかしてあげようか」

 僕が声をかけると、姉は半分笑いながら振り向いた。

「え、あんたが何とかしてくれるって? 無理よ。私が頭悪いの、知ってるでしょ」

 そして、再び机に向かってぶつくさ言い始めた。

「いや、僕。とっておきの方法を知ってるんだ。それを今から、姉ちゃんにやってあげるから」

 父と母から教わった、悪いものを直すとっておきの方法。それをとうとう、僕も実行してみようと思う。

 にっこりと微笑んでから金属バットを手に取り、僕は姉の頭を……。

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奇天烈新話―小粒ぞろいの短編集― 山田結貴 @yamadayuki4949

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