リサイクル
林檎
リサイクル
ペットボトルのジュースを飲みながら若い男が、自転車に乗っています。
「ああ、美味しかった。チェッ、ゴミ箱近くにないじゃないか。あれ、あそこにもペットボトルが捨てられている。じゃあ俺も」
ポーン、ペットボトルは、勢いよく道端に捨てられました。
夜になって、道端に捨てられたジュースのペットボトルとお茶のペットボトルが、話しています。
「わあ、寒いよ。僕達はいったいこの先どうなるの?」
「このままだと、リサイクルしてもらえないかも・・・」
「リサイクルって?」
「新しい入れ物や洋服の原料に、作り替えてもらえるんだ。でもそれが出来るのはちゃんと袋に入れてもらって、ゴミを収集してくれる人に連れて行ってもらわなければダメなんだよ」
「そうかあ。そんな風に新しい形になって、みんなに喜んでもらえるのか。でもこのままだと袋に入れてもらえないよねえ・・・」
「大丈夫、あさってはペットボトルの収集日で、この道の前の家に住む奥さんは、道に落ちているペットボトルも拾って袋に入れてくれるんだよ。以前僕は、もう少し離れた所に捨てられていたけど、奥さんが道に落ちているペットボトルを拾っていたのを見て、風に身を任せて、頑張ってここまで転がってきたんだ。あさってまでここでいれば大丈夫だよ。君はこの場所に捨てられるなんて、ついているよ」
「そうかあ、よかった」
二つのペットボトルは、自分たちが、今度どんな形になるのか、期待に胸を膨らましてわくわくしながら、眠りました。
ガタガタ、ガタガタ。ヒュウヒュウ。激しい物音で、ジュースのペットボトルが目を覚ましました。
「ねえ、お茶のペットボトルさん、何だかすごい風なんだけど・・・」
「わあ、本当だ。君しっかりしないと飛ばされたらおしまいだよ」
「そうだよえ、ここで踏ん張らないと・・・」
しかし、雨も降り出し、風もさっきより激しくなってきました。
こんなに激しい風では、どんなに踏ん張っても限界がありました。
「あああああっ、助けて!!!」
とうとうジュースのペットボトルは、風に飛ばされてしまいました。
翌朝、目を覚ましたジュースのペットボトルは、ぐったりと疲れて、道に転がっていました。
「いったいここはどこだろう?お茶のペットボトルさんは、大丈夫だったのかな?もう僕はリサイクルしてもらえないのだろうか・・・」
そんなことを考えていると、前の方から、杖をついたおじいさんが、よたよたと歩いて来ました。
「おじいさんが、僕に気がついて、袋に入れてくれるなんてことないよなあ・・・」
おじいさんが、ジュースのペットボトルの横を通り過ぎようとした時です。また急に風がヒュウと吹きました。ジュースのペットボトルは、頑張って踏ん張ろうとしましたが、昨夜の強い風に力を使いすぎたせいで、もう体の力が残っていませんでした。
コロコロ。ジュースのペットボトルが、おじいさんの足元まで転がりました。
「あっ、危ない!」
ジュースのペットボトルは、おじいさんごめんなさい!心の中で叫びながら目をつぶりました。
ドーン。おじいさんは、転んでしりもちをついてしまいました。
「あいたたた。こんな所に誰がペットボトルを捨てたんだ!」
おじいさんの怒りは治まりそうにありません。
「おじいさん、ごめんなさい。ごめんなさい。」
ジュースのペットボトルは、心の中で一生懸命謝りました。けれどおじいさんの顔はとても怒っています。
「このままだと、おじいさんは怒って、僕をまたどこかに投げつけるだろうなあ。でも僕はおじいさんにひどいことをしたのだから、仕方ないよなあ」
ジュースのペットボトルは覚悟を決めて、目を閉じました。
すると、ふわっと暖かい手が、ジュースのペットボトルの体を包み込みました。
おじいさんが、拾ってくれたのです。
「お前にあたっても仕方ないな。お前も身勝手な人間に捨てられたのだから」
そう言って、家に持ち帰り、ペットボトルの集めている袋に入れてくれたのです。
袋にはいろんな仲間が入っていました。
「もう安心だね。これでリサイクルしてもらえるね」
他のペットボトルたちも、一緒に喜んでくれました。
翌日、ジュースのペットボトルは、無事ゴミの収集の車に乗り込むことができました。
ふと、隣の袋を見ると、お茶のペットボトルが入っていました。ラベルははがされていたけど、ジュースのペットボトルもお茶のペットボトルも、お互いわかりました。
どうやら、お茶のペットボトルも、無事に、袋に入れてもらえたようです。
二つのペットボトルは、今度自分がどんな形になるのか、期待に胸を膨らましながら、お互いVサインしながら、車に揺られて行きました。
リサイクル 林檎 @mint_green
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