泣き虫桜

朝海 有人

泣き虫桜

私の名前は桜。

 今日、私のお父さんが死にました。

 もう、大きな手で私の頭を撫でてくれる事も、太い腕で私を抱きあげてくれる事も無くなりました。

 とてもとても悲しくて、私はいつまでも泣き続けました。

 濡れた手で何度も何度も、私は自分の涙を拭いましたが、私の顔はずっと濡れたままでした。

 その時、桜の木はまだ苗木のまま。


 私の名前は桜。

 今日、お母さんが死にました。

 もう、美味しい料理を作ってくれる事も、私に笑顔で微笑んでくれる事も無くなりました。

 とてもとても悲しくて、私はいつまでも泣き続けました。

 濡れた手で何度も何度も、私は自分の涙を拭いましたが、私の顔はずっと濡れたままでした。

 何度も何度も拭っても、私の顔は濡れたままでした。

 その時、桜の木は太陽の恵みを受けてすくすくと育っていた。


 私の名前は桜。

 今日、私のおじいちゃんが死にました。

 もう、私に将棋や囲碁を教えてくれる事も、お母さんに内緒でこっそりお小遣いをくれる事も無くなりました。

 とてもとても悲しくて、私はいつまでも泣き続けました。

 濡れた手で何度も何度も、私は自分の涙を拭いましたが、私の顔はずっと濡れたままでした。

 何度も何度も拭っても、私の顔は濡れたままでした。

 そして私は気づきました。私は泣いてなどいなかったのです。

 その時、桜の木は支柱を頼りに大きくなっていた。


 私の名前は桜。

 今日、私のおばあちゃんが死にました。

 もう、お菓子を一緒に作ってくれる事も、帰ってきた私を笑顔で出迎えてくれる事も無くなりました。

 とてもとても悲しくて、私はいつまでも泣き続けました。

 濡れた手で何度も何度も、私は自分の涙を拭いましたが、私の顔はずっと濡れたままでした。

 何度も何度も拭っても、私の顔は濡れたままでした。

 そして私は気づきました。私は泣いてなどいなかったのです。

 私の顔を濡らしていたのは、真っ赤に染まった血でした。

 その時、桜の木は水の恵みを受けてすくすくと育っていた。


 私の名前は桜。

 今日、私のお兄ちゃんが死にました。

 もう、私をからかって来る事も、泣いている私をあやしてくれる事も無くなりました。

 とてもとても悲しくて、私はいつまでも泣き続けました。

 濡れた手で何度も何度も、私は自分の涙を拭いましたが、私の顔はずっと濡れたままでした。

 何度も何度も拭っても、私の顔は濡れたままでした。

 そして私は気づきました。私は泣いてなどいなかったのです。

 でもその血は、私の血ではありません。

 その時、桜の木は支柱を頼りに更に大きくなっていた。。


 私の名前は桜。

 今日、私の妹が死にました。

 もう、私に甘えてくる事も、私にお菓子をねだってくる事も無くなりました。

 とてもとても悲しくて、私はいつまでも泣き続けました。

 濡れた手で何度も何度も、私は自分の涙を拭いましたが、私の顔はずっと濡れたままでした。

 何度も何度も拭っても、私の顔は濡れたままでした。

 そして私は気づきました。私は泣いてなどいなかったのです。

 私の顔を濡らしていたのは、真っ赤に染まった血でした。

 でもその血は、私の血ではありません。

 私は思いました。何で私は血にまみれているんでしょう。

 その時、桜の木は人の背丈を越していた。


 私の名前は桜。

 今日、私のペットの犬が死にました。

 もう、私の顔をペロペロと舐めてくれる事も、私と公園で遊んでくれる事も無くなりました。

 とてもとても悲しくて、私はいつまでも泣き続けました。

 濡れた手で何度も何度も、私は自分の涙を拭いましたが、私の顔はずっと濡れたままでした。

 何度も何度も拭っても、私の顔は濡れたままでした。

 そして私は気づきました。私は泣いてなどいなかったのです。

 私の顔を濡らしていたのは、真っ赤に染まった血でした。

 でも、その血は私の血ではありません。

 私は思いました。何で私は血にまみれているんでしょう。

 一人で寂しかった私は、ある時苗木の桜の木に出会いました。

 その時、桜の木は立派な幹を築いていた。


 私の名前は桜。

 今日、私の先生が死にました。

 もう、勉強を教えてくれる事も、時に厳しく時に優しく接してくれる事も無くなりました。

 とてもとても悲しくて、私はいつまでも泣き続けました。

 濡れた手で何度も何度も、私は自分の涙を拭いましたが、私の顔はずっと濡れたままでした。

 何度も何度も拭っても、私の顔は濡れたままでした。

 そして私は気づきました。私は泣いてなどいなかったのです。

 私の顔を濡らしていたのは、真っ赤に染まった血でした。

 でも、その血は私の血ではありません。

 私は思いました。何で私は血にまみれているのでしょう。

 一人で寂しかった私は、ある時苗木の桜の木に出会いました。

 ポツンと生える苗木を見た時、この桜は私と同じだ、と思いました。

 その時、桜の木は青々と葉を茂らせていた。


 私の名前は桜。

 今日、私の友達が死にました。

 もう、鬼ごっこをしてくれる事も、一緒に並んで帰っ

てくれる事も無くなりました。

 とてもとても悲しくて、私はいつまでも泣き続けました。

 濡れた手で何度も何度も、私は自分の涙を拭いましたが、私の顔はずっと濡れたままでした。

 何度も何度も拭っても、私の顔は濡れたままでした。

 そして私は気づきました。私は泣いてなどいなかったのです。

 私の顔を濡らしていたのは、真っ赤に染まった血でした。

 でも、その血は私の血ではありません。

 私は思いました。何で私は血にまみれているのでしょう。

 一人で寂しかった私は、ある時苗木の桜の木に出会いました。

 ポツンと生える苗木を見た時、この桜は私と同じだ、と思いました。

 だから私は、この苗木の桜と一緒にいる事にしました。

 その時、桜の木は芽吹く準備をしていた。


 私の名前は桜。

 今日、私の家の大家さんが死にました。

 もう、家に帰る途中の私を気にかけてくれたり、そっとお菓子を分けてくれる事も無くなりました。

 とてもとても悲しくて、私はいつまでも泣き続けました。

 濡れた手で何度も何度も、私は自分の涙を拭いましたが、私の顔はずっと濡れたままでした。

 何度も何度も拭っても、私の顔は濡れたままでした。

 そして私は気づきました。私は泣いてなどいなかったのです。

 私の顔を濡らしていたのは、真っ赤に染まった血でした。

 でも、その血は私の血ではありません。

 私は思いました。何で私は血にまみれているのでしょう。

 一人で寂しかった私は、ある時苗木の桜に出会いました。

 ポツンと生える桜の苗木を見た時、この桜は私と同じだ、と思いました。

 だから私は、この苗木の桜と一緒にいる事にしました。

 そして思いました。二人よりも、三人の方が、三人よりも四人の方がいいと。

 その時、桜の木は蕾が出来始めていた。


 私の名前は桜。

 今日、私の恋人が死にました。

 もう、私をそっと抱きしめてくれることも、唇にキスをしてくれる事も無くなりました。

 とてもとても悲しくて、私はいつまでも泣き続けました。

 濡れた手で何度も何度も、私は自分の涙を拭いましたが、私の顔はずっと濡れたままでした。

 そしていくら拭っても、涙は目から延々と流れでてきました。

 何度も何度も拭っても、私の顔は濡れたままでした。

 そして私は気づきました。私は泣いてなどいなかったのです。

 私の顔を濡らしていたのは、真っ赤に染まった血でした。

 でも、その血は私の血ではありません。

 私は思いました。何で私は血にまみれているのでしょう。

 一人で寂しかった私は、ある時苗木の桜に出会いました。

 ポツンと生える桜の苗木を見た時、この桜は私と同じだ、と思いました。

 だから私は、この苗木の桜と一緒にいる事にしました。

 そして思いました。二人よりも、三人の方が、三人よりも四人の方がいいと。

 結果、私が友達や家族を紹介すると、桜の木はとてもとても喜びました。

 その時、桜の木は花が咲き始めた。


 私の名前は桜。

 今日、私のお話を聞いてくれたお姉さんが死にました。

 もう、私のお話を聞いてくれる事も、たくさんの質問をしてくる事も無くなりました。

 とてもとても悲しくて、私はいつまでも泣き続けました。

 濡れた手で何度も何度も、私は自分の涙を拭いましたが、私の顔はずっと濡れたままでした。

 そしていくら拭っても、涙は目から延々と流れでてきました。

 何度も何度も拭っても、私の顔は濡れたままでした。

 そして私は気づきました。私は泣いてなどいなかったのです。

 私の顔を濡らしていたのは、真っ赤に染まった血でした。

 でも、その血は私の血ではありません。

 私は思いました。何で私は血にまみれているのでしょう。

 一人で寂しかった私は、ある時苗木の桜に出会いました。

 ポツンと生える桜の苗木を見た時、この桜は私と同じだ、と思いました。

 だから私は、この苗木の桜と一緒にいる事にしました。

 そして思いました。二人よりも、三人の方が、三人よりも四人の方がいいと。

 結果、私が友達や家族を紹介すると、桜の木はとてもとても喜びました。

 でも、桜の木が喜ぶにつれて、私はどんどんと寂しくなりました。

 その時、桜の木は花が咲き始めた。


 私の名前は桜。

 今日、私の世話をしてくる人が死にました。

 もう、私のご飯を持ってきてくれる事も、怯えたような視線を向けてくる事も無くなりました。

 とてもとても悲しくて、私はいつまでも泣き続けました。

 濡れた手で何度も何度も、私は自分の涙を拭いましたが、私の顔はずっと濡れたままでした。

 そしていくら拭っても、涙は目から延々と流れでてきました。

 何度も何度も拭っても、私の顔は濡れたままでした。

 そして私は気づきました。私は泣いてなどいなかったのです。

 私の顔を濡らしていたのは、真っ赤に染まった血でした。

 でも、その血は私の血ではありません。

 私は思いました。何で私は血にまみれているのでしょう。

 一人で寂しかった私は、ある時苗木の桜に出会いました。

 ポツンと生える桜の苗木を見た時、この桜は私と同じだ、と思いました。

 だから私は、この苗木の桜と一緒にいる事にしました。

 そして思いました。二人よりも、三人の方が、三人よりも四人の方がいいと。

 結果、私が友達や家族を紹介すると、桜の木はとてもとても喜びました。

 でも、桜の木が喜ぶにつれて、私はどんどんと寂しくなりました。


 ――だから私は、皆に会いに行くことにしました。


 その時、桜の木は花が落ち始めていた。


 私の名前は桜。

 桜の名前は私。

 私は血を吸って、立派に育ちました。

 桜は血を吸って、立派に芽吹きました。

 とてもとても悲しかった私は、たくさんの人に囲まれて幸せそうに育ちました。

 とてもとても悲しかった桜は、たくさんの人に囲まれて幸せそうに芽吹きました。

 鮮やかに赤く咲いた私は、もう二度と泣く事はありません。

 鮮やかに赤く咲いた桜は、もう二度と濡れる事はありません。

 私はもう悲しくなりません。だってここには、皆がいるから。

 桜はもう悲しくありません。だってここには、私がいるから。

 その時、桜の木は既に枯れていた。

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泣き虫桜 朝海 有人 @oboromituki

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