旅人の探しもの

あめい茜

第1話 名前

ぼくは、夕日を浴びてたくさんの色がひしめき合うその店で、緑色に輝く石を見つめていた。

「ぼうや、ペリドットが気になるの? 小さいのに良い目を持ってるじゃない」

ぼくよりだいぶ上の方から、耳に心地よい低めの声が聞こえてくる。

「そういや、ぼうやまだ名前が思い出せないの?」

そうだった、ぼくは自分の名前が分からない。思い出せない。

何故だか差し込んでくる夕日に不安を感じて、ぼくは身震いをして、首からかけていた青色の小瓶を握りしめる。

「あら、そろそろ戸を閉めようかしら」

声の主が、ぼくに上着を着せて戸の方向に向かいながら、こう言った。

「……名前がないのも困るでしょうし、アタシで良ければ、ぼうやに名前をあげる。オリビン、どう? 素敵な名前でしょ」

ぼくは、オリビン……そうだ、ぼくの……

「僕の名前は、オリビンだ」


名前を口に出すと、感覚が覚醒して、僕はどこかに横たわっているのを認識し、上体を起こす。

いつのまにか、場所はあの店ではなく、暖かい、誰かの家に変わっていた。

散らばった衣服、たくさんのカバン、その中に様々な小物……ナイフ、種、何に使うかわからない金属製のもの。

それらがごった返した部屋を見回しても、僕は何故ここにいるか思い出せない。

ガタガタと物音がして、そちらを向くと窓で、外は吹雪いているようだった。


「あぁーっ! やっと起きた!」

外に気を取られているといつのまにか、部屋の中にこの家の主であろう、人物がひょっこり顔を出していた。

「ねえ、君、大丈夫? でもタイミング良かったよ、次の旅支度で久々に家に帰ってきたところだったもん。でもまさか、家の前で子供を拾うとは思わなかったなぁー」

旅支度ということは、旅人だろうか、綺麗な金色の髪を持ち、夢の中でみた緑色の石のように輝く目を細めて、彼女は僕に微笑みかける。

「まあ、元気そうで良かった。君、名前は? 私はフキ、旅人のフキだよ」

「僕はオリビン……名前しか、分からない」

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旅人の探しもの あめい茜 @ameiging

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