第80話 織田四天王の話



 真田幸村と話した翌日。


 前日の話し合いの後のイライラというかモヤモヤというかそのような感情が俺の中にあり眠ることができなかった。


 一睡も。そう一睡も。だから、今の俺は、とても眠い。



 「はぁあ~」



 大きなあくびをするぐらい眠い。


 今すぐにでも倒れそうだ。


 しかし、俺達は京に向かっている最中。滝川一益も清須方面へ向かっている。これ以上諏訪でダラダラしているわけにはいかない。



 「大きなあくびだな」



 「寝てないの?」



 2人に心配される。



 「ああ、ちょっとな」



 俺は、あっさりと認める。そして、そのままこの話を終わらせる。昨日の自分のいら立ちについて見せようとはしない。何か、嫌だし。


 さて、俺達は諏訪を出ていよいよ中山道の塩尻方面へと進む。もちろん、中山道として整備されるのは江戸時代だったはずなのでこの時は東山道というべきか。



 「さて、次は塩尻あたりか。このあたりは来たことないからよくわからないな」



 「信州は山ばっかりでなかなか進まないよね。もっと平坦な東海道沿いだったらサクサク進むのにね」



 「東海道は、徳川家康の領地だから進みやすいけど信州から向かうのはきついよな。関東は北条領だし、この時代ってなかなか旅行しづらいな」



 竜也と佳奈美の2人が話し合っている。


 俺は、その2人の会話を横で聞いていた。進路についてこのあたりのことをよく知らないのであれこれ言ってもどうにもならないと思ったからだ。


 そんな会話をしている時に滝川一益が俺らの元に近づいてきた。



 「野村殿、少しいいか」



 「滝川殿が自ら近づくとは尋常ならざることですね」



 「ああ、実は清須で信長様の後継を決める会議があり、後継に三法師様に決まったそうだ。そして、サルが影響力を増しているようだ。俺はこの後どうすればいいか聞きたく思ってな」



 清州会議が終わった。


 竜也から清州会議のことは聞いている。


 滝川一益も清須会議のことを竜也が入れ知恵していると思うが、果たしてどうだろうか。



 「羽柴様は今後力をさらに増すと考えられます。柴田様は今現在織田家の宿老でありますが、羽柴様の勢いには勝てないでしょう。ここは滝川殿にとってはとてもつらいかもしれませんが、羽柴樣についておくべきでしょうね」



 竜也は今後の歴史を知っているため羽柴すなわち後の豊臣秀吉に着くことを提案する。滝川一益は、豊臣秀吉と敵対し織田家四天王の1人から没落していく。大名としても残ることができない。そのことを知っているからこそこのような提案をする。



 「……柴田や丹羽ではだめなのか?」



 柴田勝家。


 丹羽長秀。


 織田家四天王の2人の名前を滝川一益は挙げる。ちなみに残りの四天王はここにいる滝川一益と確か本能寺の変を起こした明智光秀だ。


 ああ、これは昔佳奈美にうるさいほど聞かされたので知っていた。豊臣秀吉が入っていないというのがみそらしい。


 確かに知らなかったら豊臣秀吉が四天王とか言いそうだ。



 「あの2人は今、織田家の宿老として影響力はあります。しかし、羽柴様は毛利を倒し、さらには信長様の敵討を行いました。これはかなり大きなことです。柴田様、丹羽様は信長様の敵討に参加できなかった。これを織田家の他の家臣や足軽がどうみるか。わかりますか?」



 竜也の問いに滝川一益はしばらく考える。そして、答える。



 「まあ、普通に考えれば敵討をした人に畏敬の念を抱くであろうな。つまりは、今後サルの力は今以上に大きくなると」



 「ええ、織田家は良くも悪くも信長様で成り立っていたもの。三法師様を始めとして信長様のご子息様に信長様を超えるほどの能力があるのか疑いがあります。ですので、いずれ信長様のかたきを討った羽柴様が政の実権を完全に握り天下人になるでしょう」



 竜也は、この後の歴史を語る。


 もちろん、滝川一益は知らない。それが実際に起こったことだとは。未来から来た俺達しか知らないことである。未来から来た人間だけが知っている特権である。



 「サルが天下人……くくく、笑わせてくれる。いい冗談だ」



 「いえ、冗談では済まないでしょう。あなたも感じているはずです。ただの足軽であり農民であった羽柴様の驚異的な出世を。まして現在は信長様の敵討をした人物。これほど力を持った人物は今後も伸びていくはずです。滝川殿にとっては不愉快な話になると思いますが、どうか判断を見誤らないでください」



 「……」



 何か思案顔になった滝川一益はそのまま慌てて俺らの前から出ていった。



 「あれは、どうだろうか?」



 「かなり悩んでいるようね」



 竜也と佳奈美は滝川一益の様子を見てそれぞれ感想を述べる。


 あくまでも俺らは未来を知っている。この時代の人が自分の明日をどのようにしていこうか試行錯誤しながら悩んでいる横でその人の未来が分かる。この時代の人たちにとっては何とも残酷なことであるが未来から来るとそのようなことが起こる。



 「どうなると思う、竜也は?」



 俺は聞いてみる。



 「まあ、秀吉には付きたくはないだろうな。でも、上方に行けばある程度情報を仕入れ気持ちが変わるかもしれない」



 竜也は、そのように言っているが滝川一益果たしてそれほど考えているのだろうか。俺は、滝川一益をあまり評価していない。戦国時代に詳しくないのもあるが、俺が戦国時代で好きな人物は徳川家康である。武将とは武力だけではなく知力がなくてはいけない。彼にはそれがあるようには思えないからだ。


 まあ、俺がこのようなことをどれだけ考えていても意味がない。


 すべてを決めるのは滝川一益だ。



 「おーい、そろそろ塩尻だぞ」



 俺らは諏訪から出て次なる地塩尻に着いた。


 京はまだまだ遠いのだった。



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