第79話 真田源二郎信繁

 「真田源二郎殿でよろしいでしょうか?」



 「ああ、いかにも真田源二郎だが。おぬしらは誰だ?」



 「俺は、野村竜也。滝川一益殿の軍師を一時的にしているものだ。横にいるのは、友人の小田忠志、歌川佳奈美だ」



 俺らは、真田源二郎信繁、つまりは真田幸村のもとに来た。


 俺のイメージでは熱血、赤が似合う。そんなイメージを持っていた。だが、印象はかなり断った。物静かで思慮深い。そんなイメージを俺は持った。


 そういえば、最近やっていた大河ドラマの幸村はこんな人物だったような……いや、そんなことなかった。何て、ことも考えながら竜也と幸村の会話を聞いていた。



 「ほお。野村殿か。なるほど。滝川殿の軍師。それはとても思慮深いことだ。さて、そんな軍師殿が一体この俺にどんな用があるのか?」



 幸村は軽口の様に言っているが、実際は違う。眼光がきつく、疑っている。いや、俺らの狙いを考えながら話をしているようだ。


 かなり警戒されているということが分かった。



 「俺らの用は、あなたに、いや、真田家にある」



 「真田に? 一体どういうことでしょうか?」



 「真田家は、上野国についてどう思っている?」



 竜也は、幸村に尋ねる。



 「上野国ですか? そうですね。我が真田家は本領の小県と沼田、岩櫃を持ちますが、いずれは上野の厩橋も狙いたくは思ってますね」



 「ほお。つまりは、上野全土を狙っているということでいいんですな?」



 「……ええ、そういうことになりますね」



 幸村は隠さずに上野を狙うことを断言した。


 滝川一益の軍師を名乗っている竜也にだ。竜也が滝川一益に伝えたら真田家の安全は保障されないはずなのに。



 「……」



 「……」



 何とも言えない空気が2人の間に流れる。


 真田幸村のその大胆な真田家の狙いを暴露したことに竜也は何を思っているのだろうか。まさか、それも作戦通りだったりして。いや、そんなことはないか。



 「わかりました。滝川左近殿には伝えておきましょう」



 「……それで真田家を攻め滅ぼすおつもりですか?」



 「いえ、私としてはそんなこと考えてはいないですよ。滝川左近殿はこれから関八州を攻め自身の領地にします。その時に、あの方は上野よりも他の国にいるべきだと考えているので上野は真田家に譲る。そのような書状を作ります。それで真田家のお力を貸していただけないでしょうか?」



 「……父上の安房守と相談させてもらいたいので少々この話の返答を待ってもよろしいでしょうか?」



 「ええ、私としては待ちますよ。もちろん、いつまでも待てません。……そうですね。京に着くまでに返事をいただければいいですかね」



 「それで承知しました」



 その言葉の後、真田幸村はあわただしく出ていった。


 俺らは滝川一益の陣に戻る。


 誰もいない場所へ行く。



 「いい加減、外で寝るのは嫌だな」



 「そうね」



 「だなあ」



 「さて、竜也」



 俺は、竜也に話を振る。



 「何だ、忠志」



 「さっきの話だが、実際どれぐらい有効なんだ?」



 「有効……真田がこの話に乗るかってことか?」



 「ああ、そうなるな。言葉足らずですまん」



 俺は、竜也が提案した案について真田がどれぐらい乗るか竜也本人の見立てを聞く。


 この策を聞いた時、竜也は確実に成功できるとは思ってもいなそうだった。群馬西部の影響力を持っている真田だから乗りそう。それぐらいに思っていたはずだ。


 しかし、実際に真田幸村と話をして感触をどれぐらい掴んだのだろうか。



 「まあ、俺が思っていた以上に反応がいいな。真田に上野一国与えてもいいぐらいだと思っていたが、ここまで好感触だとは思ってもいなかった。上野だけじゃなくて甲斐もおまけにつけようか考えていたが、その策は出さなくてもよかったな」



 どうやら竜也には失敗した時に備えて他の策を持っていたようだ。


 さすが竜也。俺にも思い浮かばないことまで思い浮かぶとは。



 「たしかにうまくいくならこれでよかったね。それに甲斐を与えたら地方病があるからね。いろいろと大変だしね」



 佳奈美が竜也に言う。


 佳奈美が言っている地方病とは、山梨県で昔から流行っている吸血病という病気だ。あの武田信玄も亡くなった原因となっている。そのため、山梨県ではこの病気に対してかなり苦労している。


 俺は、この病気についてはなぜだか知らないけど知っていた。


 だから、竜也らに説明されなくてもこれについては大丈夫だ。



 「地方病、か。確かに甲斐を与えることのデメリットは確かにあるな。やめておいて正解か」



 竜也は佳奈美の意見を聞いて自分の次の策を提案しなくて正解だったなと言う。



 「そうだよ。よかったね」



 「ところで忠志、お前は地方病の事わかっているのか?」



珍しく俺が質問をしなかったのか。竜也が不思議がって俺に聞いてきた。いつもの俺であれば戦国の知識がないのですぐに竜也たちに聞いている。しかし、その行為をしなかったので不思議がられたのだ。



 「ああ、そのことについては知っている。いつも質問ばかりすると思うよ」



 たまには俺のことを見直してくれとの意味合いを込めて強く竜也に向かって言う。


 俺だってたまにはやるんだ。そう言いたい。



 「……まあ、お前も歴史が専門なんだし、むしろ今まで何で知らなかったのかぐらいなんだけどな」



 「……そうね。どうして知らなかったのかな」



 竜也と佳奈美に文句を言われる。いや、皮肉か。


 仕方ないだろ。知らなかったのだから。俺の専門は近代史なんだし。


 くぅぅ。


 俺は2人に反論が言えなかったのが悔しかった。



 「まあ、今日のところはこんなもんだろ。早く寝ようか」



 そのまま2人は寝てしまった。


 俺は、何か釈然としなかった。寝なければいけないが、寝るに寝れずに次の日を迎えることとなったのだ。

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