第60話 佐久郡での事その二



 夜。


 村人に貴重な食料を分けてもらってしまい申し訳なく食べた。遠慮したが、滝川一益の一行であることは知られていたのでそんなことはできないと向こうも譲らなかったからだ。俺ら3人は貴重な食料を本当に申し訳なく食べた。



 「申し訳ない」



 「やっぱり、ちょっと遠慮したかったよね」



 「まあ、武士相手に逆らえない社会だから仕方ないのかもしれない。そういう社会が終わるのは明治にならないとだ。歴史の表ばかり知っているとこういう裏があったことを知ると何だか歴史って勝者が作っているんだなって本当に思う」



 「歴史は勝者が作るね。よく言う言葉だね」



 「まあ、実際そんなもんだよな。古代とか完全にそうだよな。俺らが習った歴史ってどこまで正しいことだか」



 竜也の話に佳奈美、そして俺の順で話す。


 歴史をやっていると背景がよくわかってくる。江戸時代に秀吉がぼろくそに言われていたのは秀吉の豊臣政権を打ち破って政権を握ったのが徳川家康であるから自分の政権の正当性をアピールするためにも豊臣政権、つまり秀吉をぼろくそに言わなくてはいけない。だから、すべてを鵜呑みにすることは危険だ。


 まあ、俺は今まで竜也と佳奈美の2人の話を鵜呑みにしていたから何にも言えない立場なんですけどね、ははは。


 笑い事ではないか。


 はい。



 「しかし、外で見守りをしてくれている人達にも悪いな」



 「そうだね」



 「だが、彼らもそれが仕事だ。俺らは守られるのが仕事だと思えばいいのさ」



 竜也は何にも思っていないのだろうか。


 俺には無理だ。


 自分が一般人だという自覚があるので人にこんな風に守ってもらえるなんて夢のようだった。だから、逆に不自然すぎて慣れることができない。逆に気を使ってしまう。それが仕事だと言われても俺の脳内ではそんな簡単に切り替えることなんてできていなかった。



 「とりあえず寝ようぜ」



 「……そうだな」



 俺はあまり深く考えても仕方ないと思ったので寝ることにした。



 ◇◇◇


 それから数刻後。



 「ぎゃあああああああああああ」



 「わあああああああああああああああああ」



 「とりゃあああああああああああ」



 外がやけに騒がしくて目が覚めた。



 「何だ、一体?」



 俺は起きた。



 「忠志、ようやく起きたか」



 「忠志君、危険だよ。とりあえず菊川さんの言うとおりに動こう」



 「何があった?」



 何が起きたのか菊川に説明してもらう。



 「山賊が出ました。滝川左近様がこのあたりに来ることを聞いて財宝があるんじゃないかと釣られたのでしょう」



 「ちっ、やっぱそういう展開になるのか」



 嫌な予感がしていた。


 しかし、城ではなく村の方に来るとは。こっちは数が少ないというのに。



 「向こうの数は?」



 竜也が尋ねる。



 「ざっと30人ぐらいだと思われます」



 「10と30か。勝てない数ではないが……増援の見込みは?」



 「一応、忍びに連絡を任せました。それが今から半刻前の話になります。ですので、そろそろ増援は来てもいいころです」



 「ありがとうございます」



 「おりゃあああああ」



 俺らがいた家の近くに盗賊が近づいてきて刀を思いっきり振り回していた。



 「御三方はここで待っててください」



 菊川はそう言うと家を出て盗賊相手に戦い始めた。



 「おりゃあ、おりゃあ、おりゃあ」



 盗賊は何も考えずに刀を振り回している。菊川はそれをすべて交わしたり、刀で受け流したりする。



 「面倒くさい輩ですね」



 菊川はそう叫ぶと刀を盗賊に対して振りかざす。



 「まだまだあああああああああ」



 盗賊は叫ぶ。


 刀を無理やり力で扱い、菊川の刀を防ごうとする。しかし、菊川はそれを見てニヤリと笑った。



 「学がない人は扱いやすい」



 菊川は振りかざすふりをしてそのまま後ろへと下がった。


 なぜ、後退したんだ。俺は理由が分からなかった。


 だが、理由はすぐにわかった。



 バン



 銃声がした。


 盗賊はそのまま倒れた。そのまま動くことがなかった。絶命した。


 銃声のした方を見る。そこには弥介がいた。



 「皆様、大丈夫ですか?」



 弥介はそう言うとさらに近くにいる盗賊に対してまた撃った。



 バン



 弥介をよく見ると火縄銃を2つ手に持っていた。火縄銃は火薬をいちいち入れていかないといけないので信長が三段撃ちを考えて長篠の戦いで使ったとか言われているがそれを一人だとできないから2つ用いているということなのか。



 「弥介、助かった。あと、敵はどれぐらいいる?」



 「大方片付きました。いやあ、重蔵さんがかなり敵を打ち破りました」



 「そうか、重蔵がか。あとで褒美をやらんとな」



 菊川はそう言う。


 その言葉を聞いて菊川って結構立場がいい武士なんだなと再確認した。


 それから少しする。



 「皆さん、もう大丈夫ですよ」



 「ありがとうございます」



 「流石ですね」



 佳奈美がお礼を言う。


 竜也が褒める? 褒めるって偉そうな言い方になるけど。



 「本当にお強いですね」



 俺は驚いていた。とくに、目の前で殺し合いをする場面を見てしまってショッキングであったが、この時代の人々の生活というか価値観というものを見てしまった。必死に戦っている菊川らの表情はとても印象深かった。ああ、これが武士なのかと俺は思った。


 俺には武士はやっぱり無理だ。改めて実感させられた。でも、農民でいても安全ではないということも再確認させてもらった。


 だから、1つ思いきって行ってしまった。



 「菊川さん、お願いがあります」



 「何ですか?」



 「俺に刀の作法を教えてください」



 「え?」



 驚いたのは佳奈美だった。



 「本気なのか?」



 竜也も驚いていた。


 頼まれた菊川は会釈をし答える。



 「いいですよ」



 あっさりしていた。


 でも、刀について教えてもらえることは確定したのだった。



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