第59話 佐久郡での事その一
翌日。
「ああ、いい天気だな」
「そうだねえ」
「天気がいい日だから結構進めるんじゃないか」
天気が快晴といってもいいほど抜群によかった。
「雨の中に動くのはつらいからこういう天気がずっと続けばいいんだが」
「でも、いいのか忠志?」
「あ? いいってどういうことだ?」
「お前、農民をするつもりだろ。雨は農業にとってとても重要なものだぞ。雨が降らなければ作物を育てることができないからな。恵みの雨という言葉があるぐらいなんだから雨には今の内から感謝しておかなければならないぞ」
「うぅ」
確かにそうだ。
俺は農民を目指すことを決めているんだから、農民となったら雨が降らない、イコールふざけるなと怒っているだろう。誰に怒るのかはわからないが。
「まあまあ、今は天気が晴れている方がいいのだから、それでよしにしましょう」
佳奈美になだめられる。
何だろう、最近竜也と言い合いをした後って必ず佳奈美になだめられているような気がするけど気のせいだろうか、本当に気のせいだろうか。なあ、なあ。何か言ってほしい。
俺がそのことを口にして言うと、2人してどこか振り向いてしまう。俺の顔を真面目に見てくれない。やっぱりそういうことでいいのだろうか。
「いいから、とにかく、ああ、もう出発みたいよ。さあ、さあ行くわよ」
「そうだな、行くぞ」
佳奈美の下手な芝居、そしてそれに乗っかった竜也の言葉でこの話は終わった。そのまま出発することになった。
さて、俺達は軽井沢を出てとりあえず今日目指したのは佐久であった。
現在で言う長野県佐久市。長野県佐久市は、北陸新幹線も通っており発展している都市である。佐久は佐久郡という名でずっと前から存在している。なので、今から向かう場所はこの時代においても佐久でいいらしい。
「佐久か。群馬から長野に行くとしたらよく行くなあ」
「そうね、佐久平駅とかで降りればすぐモールがあるから買い物とかしやすい場所だよね」
「佐久をこの時代治めていたのが春日城を本拠地とした依田(芦田)信藩だ。彼は徳川家康に従属することになるからこっち側の人間だ。佐久は武田家滅亡後に混乱するが、それをまとめあげた実力者なんだ。ただ、1583年つまり来年戦死してしまう」
「戦死? どうしてだ?」
「佐久は北条方に通じるものもいるんだ。そして、北条方の岩尾城にいる大井氏を滅ぼそうとしたが、うまくいかずに戦死してしまうんだ」
「付け足して言うと、佐久は武田、北条の勢力の境界面でもあるから緊張しているのよ。さらに、武田の前は名門小笠原家もいたし、かなり緊張した土地だったの。城も佐久地方には多く存在しているわね」
いつもの通り竜也の解説が終わった後に佳奈美が補足的に説明をしてくれた。専門家2人から意見を聞いているような感じだ。ここが戦国時代じゃなければ俺の立ち位置が逆だったはずなのに。そんなことを思っているが非常にもここは戦国時代。どうにもならないな。
「そうなのか」
そうなのかと頷くことしかできない。いや、だって他に何て言えばいいのかわからんだろ。専門じゃないんだから。この2人に対して意見を言えるほどの知識を持っていないのだから全部鵜呑みにしていくしかない。
「何か反応薄いな」
「そうね」
「え、何で俺攻められているんだよ」
「いや、反応が悪いから」
「それ理不尽じゃね」
「あはは」
「御三方、お話があります」
俺らがわいわいと話しながら歩いているところに菊川が声をかけてきた。
「どうかしましたか?」
「はい、実は今日は春日城に泊まることになります。しかし、ここはまだ戦が行われる地域です。北条側の侍がまだ近くにいます。ですので、皆様には城から少し離れた村に泊まっていただくことにします」
「なるほど。確かに城が襲われる可能性がありますから、それは一理ありますね。しかし、村も危なくはないですか?」
「はい、ですので私が大将となった小隊を編成し守らせていただきます」
「なるほど。それはいい案ですね」
菊川との交渉はすべて竜也に任せている。竜也が良いというのであればそんなに問題はないだろう。
「では、ご紹介させていただきます。小隊のメンバーは10人でいきます。本当はもっと多い方がいいのですが、最低限山賊に襲われる心配を無くすことを目的とするために10人という少人数で行きます。まず、山城左衛門」
「はっ、よろしくお願いします」
山城左衛門と呼ばれた男は、身長が俺らと変わらないぐらいの男であった。顔立ちはこれこそ豊臣秀吉じゃんというようなネズミ顔だった。
「それから伊勢八郎、伊勢九郎」
2人の兄弟が出てきた。
「わいらは伊勢国からの浪人です。滝川様に拾われて今の立場があります。よろしく」
元気そうな2人であった。
気さくでもっと話が聞いてみたいというような奴らだ。
「それから、今重蔵、吾妻新介、桃井平蔵、鳥羽因幡、鈴鹿式部、弥介、平助だ」
7人まとめてであったが、1人1人簡単に自己紹介をしてくれた。みんなよさそうな人であった。この時代の人ってもう少し悪人かなとか少し思っていたがこれなら安心かな。
「よろしくお願いします」
竜也もほっとしているのか、笑顔で話をしている。
俺らはとりあえず村に入り今日はこの村で泊まることになったのだ。
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