第48話 士官
竜也と佳奈美と滝川一益のところへと向かった。
それは彼に呼ばれていたからである。
「何で、俺ら呼ばれたんだ?」
「さあ?」
「あれじゃないの。戦に無事勝てたからお礼とか」
「そんな良いことあるか?」
「あるんじゃないか? やっぱり恩賞というのは一番大事なもんだし」
「私達恩賞もらえるの?」
「おい、佳奈美はどうして恩賞という言葉でそんな目を輝かせているんだ」
「か、佳奈美?」
「「はっ」」
「へー。佳奈美ねえ」
「いやいや、竜也さん今は恩賞の話をしましょう」
「恩賞って何をもらえるのかなあ」
「佳奈美ねえ」
「「その話に戻さないで!」
「はっはは。いいねえ、面白いなあ。お前らの仲がもっと進展していてよかったよ。小田は草食系だからそんなことできないとは思っていたけどやはり楽しんだ後って人間変わるんだな」
「「だから、その話はやめて!」」
恩賞の話をしている最中にボロを出してしまい散々竜也にからかわれてしまった。
とてつもなく悔しい。
手玉に取られている感がものすごく悔しいのだ。
「はっはは」
その笑い方が腹立つ。
いや、むかつく。
腹立つ以上にむかつく。
これが知り合いに言われてなかったら俺は手を出している自身がある。それだけ今野竜也はうざかった。
いいですか。人の恋愛話は聞くのは楽しいが、当事者というのは心底気分が悪くなる。まあ、中にはうれしい人もいるらしいけど……その人はMなのかな?
さて、そんな会話をしながら歩いていると滝川一益のもとへとたどり着いた。総大将らしく陣の一番奥で側近らと酒をかわしていた。
「滝川殿」
竜也が呼びかける。
「おー、来たか。来たか。待っていたぞ」
酒を飲んでかなり酔っているのか言葉がかなり砕けてテンションがハイになっていた。
「ご用件とは何でございますか?」
竜也が言う。
俺らは、竜也に任せた。
下手にしゃべって不敬になりたくないし、敬語が苦手なんだよな。だから、任せる。佳奈美は、お酒に酔った状態の男の人に近づくのはまずいと判断して俺が少し滝川一益から離した位置に居座らせた。
「実は折り入って話があるんだ。単刀直入に言う。配下にならないか?」
……何となくだが、その話が来るのではないか。ここに来るまで少し話題に上がっていた。俺らは戦には直接的に関わっていないが、間接的には関わった。戦の結果を変えた。それは、滝川一益もよく理解しているはずだ。また、理解をしていなかったとしても俺らの知恵は配下として囲い込んでおくぐらいのことはしておこうとは考えるだろう。
それらを考えた上での先ほどの言葉に繋がる。
「私は、謹んでお受けします」
竜也は、滝川一益の誘いを素直に受け入れた。
心なしか笑顔に感じた。喜んでいるのだろうな。戦国時代が好きな人間だし、それに自分の知識を多く生かすことができる環境に巡り合うことができた。それがよほどうれしいのであろう。
俺には、竜也の内心をそのように評価していた。
佳奈美は、すぐに返事しなかった。かなり悩んでいた。顔色は怖かった。悩んでいる証拠だった。
そして、俺も答えなくてはいけない。
俺の答え。それは、もう最初から決まっていた。
「すみませんが、俺はその誘いには乗れません」
断る。
俺は、滝川一益の誘いを真正面から断った。
「ほお、それに理由はあるのか?」
滝川一益は、興味深そうに俺に聞いてきた。
俺なんかの話を聞いてもなあと思ったが、理由をきちんと言わなければ理解してくれないと思ったので、俺が誘いを断った理由を話す。
「俺は、この時代のことをあまりにも知りません。なので、武士というのは向いていないと思うのです。だから、農民として生きていこうと思います」
「農民……百姓のことか?」
「そうなります。作物を作って皆さんを裏から支えていきたいと思います」
俺は、最初この世界に来た時に農民になると考えていた。
しかし、あれやこれやしているうちになぜか神流川の戦いに関わっていた。このままいけば武士ルートになっていたはずだ。歴史も若干変えた。だったら、武士としてやっていくのもありじゃないか。しかし、武士になるのはやはりどこか俺の中ではピタッとはまっているような気がしなかった。農民がはまっているかどうかわからないが、自分が最初決めた道を、筋を通してみたいと思った。
だから、作物を作ることを決める。
それに、最初いたあの村の人たちには恩があるからその恩返しをしなくちゃいけないとも思っていた。
あの村で出会った村長さんやきく、まつに何かをしてあげたいと思っていた。
だから、俺はあの村で農民として過ごしていこう。その決意をした。
「あい、分かった。で、そこの女は?」
「わ、私は……」
佳奈美はまだ悩んでいた。
竜也が佳奈美に声をかける。
「もう、答えは決まっているのだろう。自分が思う考えでいけよ」
「……わかった。すみませんが、私もこの話丁重にお断りさせていただきます」
「そうか、残念だ」
「いいのか? あんなに戦国時代好きなのに仕えなくて?」
「いいのよ。それに女じゃ、実際に戦とかには出れないし、何より忠志君と一緒の方が良いって思ってね」
へっ。
その言葉を聞いて照れてしまった。
そんな恥ずかしいことを真面目な顔で言わないでほしい。こっちまで恥ずかしくなる。
いや、恥ずかしい。
本人も言った後、顔を真っ赤にしてかなり動揺していたけど。
「じゃあ、小田。ここでお別れだ。お前らはお前らなりのやり方で生きていこう」
「ああ、それに俺らは滝川領にはいる。だから、いつでも会いに来てくれてもいいんだぜ」
「そうだな」
こうして、俺達の次にやることが決まった。
俺らはここで1回分かれることになる。
各自の目的のために。
宴は終わった。
そして、日常へと移っていった。
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