第47話 何があったのかは想像に任せます



 神流川の戦い決着。


 北条軍は撤退していった。


 それから半日経ったのだろうか。完全に撤退したことが確認され滝川軍も上野国厩橋城に戻ってきた。


 もう日は落ちていて城の中は明るくするために炬火を焚いていた。


 夜は遅いので城は静まり返っていた──なんてことはなくむしろ逆だった。城の中は宴会模様だった。



 「勝ち戦じゃったな」



 「拙者の槍さばきがよかったんじゃ」



 「お前ビビって何もできなかったくせに」



 「お前だって鉄炮を使うの下手だったくせに」



 城の中では武士達がお酒を飲んで飲んで飲みまくっていた。


 現代の飲み会で一気飲みが横行したとかニュースで見たことがあるけど日本人って昔からこんな感じだったのだと思い知った。ああ、最近の若者がーじゃなくて、これは日本人の遺伝子の問題だったのか。



 「うにゃうにゃ」



 「うああああああああああああああ」



 何か、酔っ払って叫んでいるような奴もいるし、やばいな。



 「小田君。野村君が呼んでいるよ」



 俺が、武士たちの宴会模様を観察しているところに歌川がやってきた。


 竜也が俺をどうやら呼んでいるようだ。いったい何の用だか。



 「わかった。どこに行けばいいんだい?」



 俺は、歌川にこっちと言われて付いていく。


 歌川は無言で俺を竜也がいる場所に案内してくれていた。


 無言。


 何で、無言なのだろうか?


 ま、まさか緊張して何も言えないのか。恥ずかしくて。


 俺達は、きちんとお互いの気持ちを確認し合った。それ以来どこかお互いの間に意識してしまっているのかぎくしゃくしているような気がした。



 「なあ、歌川」



 「な、何?」



 俺が声をかけると普段よりも一回り高い声で裏返って歌川は返事をした。


 ああ、緊張しているな。


 察した。


 しかし、ここまで緊張する理由があるか? やはり、2人きりだからか。そうなのか。


 よくよく考えてみればこれってデートみたいなもんだよな。いや、デートだったらどこかに出かけるとかそういうものをイメージするけどお家デートというものも世の中には存在するらしいし。ともかく、かなり歌川は緊張しているようだからたわいもない話をして緊張を和らげてあげないといけないなあと思った。



 「なあ、歌川。1つ聞いていいか?」



 「な、何小田君」



 緊張しているな。わかった。普通に。



 「どうしてそんなに緊張しているんだ?」



 聞いてみた。ちなみに本当に聞こうと思ったことは違うことだったが、今は緊張を和らげてから本題に入ることにした。



 「え、そ、それはね……」



 モジモジ体をさせていた。


 普段の歌川であったらしないような動作だと思う。



 「何だよ。はっきり言ってくれないと俺には何のことかまったくわからうぐ」



 俺の言葉は途中で邪魔されてしまった。


 どうやって邪魔されたのか。


 それを聞くのは、やぼだぜ。


 ってか、俺の理解が追い付いていなかった。


 俺は、歌川にどうしてここに連れてきたのか聞いていたはずだ。そして、モジモジ体を動かしていたのでどうしたのか理由を聞いた。理由をしっかり言ってくれなかったので、はっきり言ってくれるように頼もうとした。


 その結果がどうなったか。


 俺の言葉を途中で歌川はさえぎった。キスをして。


 ええ、キスをされた。


 突然のことで俺の頭は真っ白になってしまった。



 (え、ええ?)



 頭の中ではかなり動揺した。


 いや、体も動揺していた。


 プルプル震えていたような気がする。


 しかも、キスはただの唇を触れるだけのものではなかった。うたがわは自分の舌を俺の口の中に入れてきた。いわゆるディープキスだった。


 いやいやいや、こ、高校生には早い。


 こんなエロいこと俺にはできない。


 そう思いながらも、歌川にすべてをゆだねていた。



 少し時間が経つ。


 口をようやく解放された。



 「う、歌川……」



 「ねえ、小田君……いや、忠志君。私は、もっと付き合って忠志君と親密になりたいの。だから、もう歌川なんて言わないで」



 歌川の目は、うるうるとしていた。


 ああ、俺はこの後どうして欲しいのか察することができた。



 「佳奈美。俺は、お前のことが好きだ。だから、もっと、もっと俺と……」



 その後、何が起きたのか。


 多分、分かるだろう。


 時間にして1時間ぐらい。


 人気のない場所で2人。2人きりだった。


 何が起きたのだろうねえ。うん、想像を勝手にしてくれたまえ。


 ちなみに、竜也は呼んでいなかったそうだ。


 佳奈美は、俺を人気のない場所に連れて行くための口実として利用したそうだ。


 まあ、竜也の事だしいいよなと2人して笑いながら話していた。


 でも、竜也の元に言ったら「お楽しみでしたね」っていう定番のネタをされてしまった。


 「おまえなあ」と思ったのは、俺だけじゃなく佳奈美も同じだったようで2人して呆れた目で竜也を見たのだった。


 宴会は、まだまだ続くのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る