第46話 神流川の戦い戦況



 「やあああああああああああああああああ」



 戦が始まった。


 神流川の戦いだ。


 史実だと織田家の滝川一益軍は北条軍に敗れる。北条軍には後に北条家の当主となる北条氏直の名前が連ねていた。


 北条家としては完全に上野を落とし自国とすることに必死であった。



 「しかし、生の戦を見るのってすげえな」



 「ほんとだね」



 「本来ならばこういう話って俺らが戦場に出てチート能力で戦ったりするもんだと思うけどな」



 竜也、歌川の3人と戦を見ているだけであるから適当な会話をしている。


 この様子だけ見るとテレビで大河ドラマを見ているだけの感覚だ。



 「確かにね。戦国時代にタイムスリップして、例えば信長になって戦ったりとかするのがフィクションのお約束だよね」



 「俺達には何一つとして特殊な能力がないね」



 「そうだね。野村君。ここから私達はどうすればいいのかな?」



 「戦が終わるのを見ているしかない」



 「本当に俺らには何もすることがないんだな。やっぱり早く農民に戻りたい。そもそもこの戦国時代で俺は農民として生きていくと決意を決めていたのにどうしてこんな戦ごとに巻き込まれているんだか」



 俺は愚痴った。


 そういえば、俺は戦国時代の知識というものがあまりない。戦国マニアというわけではないからだ。だから、戦国時代で生き残ろうとしても細かい大名家のことまでは俺は知らない。江戸? 里見? 何それだ。ちなみにこの2つは最近竜也がぼそぼそ言っていたのを偶然聞いて覚えた。だから、どんな武士かわからない。江戸って地名もあるからあの江戸に領地を持っていたかぐらいの推測しかできない。



 「まあまあ、野田君。農民しているよりも楽しいよ。こっちの方が」



 「歌川は、戦国が好きだからそういうことが言えるんだよ。俺全く知らないんだよ」



 「今から勉強すればいいじゃない。まだ、間に合うわよ」



 「……それ、本気で言っている?」



 「私が嘘ついたことある?」



 「……いや、あるだろ。たまに俺をからかって嘘言ったりしただろ。真田十勇士が本当にいたとか。あれ、後で調べたらモチーフの人物がいた人もいるけど禅院存在しているかどうかは歴史学的には怪しいらしいじゃないかよ」



 「いや、あれだよ。真田十勇士はロマンでしょ。全員いるに決まっているわよ。私は信じてるもん。だから、嘘ついたわけじゃないし」



 「いや、でも歴史を勉強するということは学問的にやらないとじゃん」



 俺と歌川が白熱? したかどうかわからない議論を言い合っているともう1人この場にいた人物である竜也が呆れた声で話に割って入ってきた。



 「お前らいつまでイチャイチャしているんだ」



 「「イチャイチャしてないからっ!」」



 「いや、お互い好きで両思いが確定しているのに付き合っていないことだけでお前らなあと思っているのに、それに加えてなあ、俺がいる中2人で仲良く話をしていることがかなりイチャイチャしているように思えるという第三者の視点に立ってもらえるか?」



 「そんなにイチャイチャしているように見えたの?」



 歌川の質問に対して竜也は無言で頷いた。


 俺らの会話がそんな風になっていたなんて。


 俺と歌川は、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしてしまった。



 「やめろよやめろ。からかっただけだ。まったく、お前らおとなしくなっちゃって。からかいがいがなくなっちゃうだろ。もっと元気に反論しろよ、もー」



 俺らが顔を真っ赤にして黙ってしまったことに竜也が少し悪気を感じたのは頭を手でわしゃわしゃとかきながら「あーもー」と言い、俺らに対して謝った。



 「別にそんなことないぞ。おとなしくはなっていない。なあ、歌川」



 「ええ、小田君。そうよ、ちょっとしゃべるのが疲れて黙っただけなんだからね」



 俺らはお互い言い訳を竜也に対して述べた。



 「……」



 そんな俺達の言い訳を聞いていた竜也は、無言でジト目であった。



 じー



 嫌な空気だった。


 何で、竜也に攻められているような感じでいるかわからない。ってか、俺悪いことは別に何もしてないような。



 「まあ、いいや。半分俺の嫉妬だから。いいですねえ、リア充は。こんな人が自分の命を懸けて戦っている横で乳繰り合いをすることができてねえ」



 「その言い方は嫌味ありすぎだろ」



 「確かに、今、神流川の戦いの最中だし考えとしては間違えていないけど、野村君ちょっと言い方ひどいよっ」



 俺と歌川から非難が相次ぐ。相次ぐといっても2人だけど。


 でも、確かにそうだ。


 戦場からまあまあ離れてしまうと危機感って本当になくなるもんだな。


 昨日まで普通に会話をしていた人たちが戦によって亡くなってしまっているかもしれない。そういうことを考えると俺達の行動は、戦場の横では完全に不謹慎だったかもしれないな。



 「でも、戦見ているだけだと暇だな」



 「……それ言っちゃだめだ」



 「あっ、でも戦況が動き始めたよ」



 歌川の言葉を聞き、俺達は戦場の方を見る。


 北条軍が撤退し始めた。


 諦めたのだろうか。


 本来であれば負けていた神流川の戦い。


 北条軍に対して滝川軍が勝った瞬間であり、歴史が大きく修正された瞬間であった。



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