第45話 神流川の戦い開戦
「……ついに戦が始まるのか」
「うん。何か実感がわかないね」
「確かに俺らは現代人だしな。これが、戦国時代だということをいまだに理解することをたまに拒絶してしまう。でも、この時代に住んでいる人にとってはこれが日常なんだ。だから、現代がいかに平和なのかよくよく考えさせられるな」
「そんな難しい話をしていたのか、竜也? まあ、そろそろ俺らも様子を見ないとな」
俺がこういうと竜也と歌川そして俺は望遠鏡を取り出した。
今、俺らがいるのは滝川軍の陣──ではなく、竜也がこの時代にタイムスリップしてきた家である。
安全な場所から戦を見るということで、望遠鏡を使って遠く神流川で行われている戦いを見ることにしたからだ。
「おお、よくみれるな、これ」
「すごいねえ」
「これ、最新の奴だからな」
何で、最新の望遠鏡が3つもしかも古い倉庫にあったのかは突っ込まないでおく。そもそも家一戸が倉庫というのもツッコミどころだが気にしない。気にしてはいけないんだ。
「さあーって、どんな戦いになるんだか」
「俺らはここから見るだけだから、詳しい戦況は分からない。実際にどのような戦いが起きているかまでは分からない。大雑把だからな。漫画みたいに俺らも戦に参加するぐらいのことができればよかったんだが」
「そんなこと言わないでよ。私達は普通の人間よ。チート能力なんてないの。だから、素直に戦を見ているだけでいい。戦に行って死んでしまったらどうするのよっ」
歌川が俺らの言葉に対して本気で怒ってきた。その言葉を聞いて俺は何て格好つけたがっていたんだかと少しばかり反省をした。男というのは格好つけたがりだな、本当に。
「おっ、動き始めたぞ」
竜也の言葉に反応して俺は望遠鏡に目を覗き込む。
望遠鏡の先からは武士が一斉に川に向かっている様子が見えた。
両サイドから真ん中の川に向かって一気に攻めていっている。
一方には見覚えがある旗が掲げられていた。ああ、あれは滝川軍の陣地で見た滝川軍の軍旗だ。
つまりはこっち側が滝川軍だと理解した。対する向かい側がつまりは北条軍ということになる。
三角形のマークが書かれた旗が掲げられていた。どこかで見たことがあるような有名なもののような気がする。
「北条の家紋は有名な奴だぞ。三つ鱗の一つで北条鱗とも呼ばれている。鎌倉時代の執権北条氏も使っていた奴だ。そもそも北条氏は北条早雲が初代と言われているが実際に豊穣を名乗り始めたのは2代目の北条氏綱の代からだからな。関東を支配するに際して伊勢氏では都合が悪いから鎌倉時代に執権として関東を牛耳った北条の名を名乗ることにしたのだろう。家紋もそれに合わせてだろうな」
へえー。そうなのか。
俺は感心していた。しかし、竜也の前でへえーとか素直に言ってしまうと怒られるような気がしたのでここは黙っておく。
しかし、北条についてあまり詳しくはなかったが竜也のおかげで少しは詳しくなれたような気がする。
「しっかし、俺達は戦の行方を見ているだけとはな」
「何だ? やっぱり戦国時代にタイムスリップしたからには小説とか映画みたいに自分も戦の先頭に立って手柄でも立てたいのか?」
竜也におちょくられる。
「小田君、戦に参加できるほど私達は強くないんだから変なこと言わないでよ」
歌川にはガチで怒られてしまった。
「ごめんごめん。でも、やっぱり俺も男だからさあ本来ならばチート能力の1つや2つ身に付けて敵をバッタバッタ倒したいんだよ。まあ、現実はそんなに甘くないけど」
「小田、小説の読みすぎだぞ……と言いたいがタイムスリップしている時点ですでにSFだから俺もこんな言い方をするのは間違いだろな」
竜也にも言われてしまう。
でも、俺は男だから少しぐらいそういったことを考えてもいいだろうと思う。確かに力がないから今戦に出れば死ぬというのは目に見えている。でも、男として戦国時代というのは興味がなくてもどこかロマンを感じるのだから仕方ない。
俺なんかよりも竜也の方が本来そういったロマンというものを感じていると思うが竜也はそういったことはあまり思わないのだろうか。どこか冷めているように感じてしまうが、自分の命がやはり一番大事だということなのだろうか?
「竜也はロマンを感じないのか?」
「ロマン? 俺が戦いの場に出るのとは話は別だ。戦国時代は好きだとしてもそれは研究の上での話であって実際に自分が戦に出ろと言われたのだったら嫌な時代であることに違いはない」
思いっきり俺のロマンを否定されてしまった。
まあ、俺は近代史が好きなのは軍部の政治史にも興味があるからだから軍に興味があるイコール戦にも興味があるという思考を持っているのであって竜也にも簡単に当てはまる話ではなかったな。
「野村君、北条がかなり攻め込んできているよ!」
歌川が戦の様子を語る。
俺もその言葉を聞き神流川の方を見る。滝川軍の奥の方まで一気に北条軍が攻めかかろうとしていた。
戦が始まってまた一刻も経っていない中の状況だった。
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