第49話 農生活

 神流川の戦いから2か月が経過した。


 天正10年8月。西暦に直すと1582年の9月。


 俺は、2か月で何をしていたかというと……



 「小田様―、稲刈りしましょー」



 「わかった」



 俺は、この2か月で再びこの時代に来た時にたどり着いた村にいた。そして、そこで農民になろうと思い、村人と共に農作業をしている。しかし、まだまだ農民にはなれそうになかった。


 どうしてか? その理由はというと……



 「神様なら何でも知っているんだよー」



 「すげえ」



 「流石だな」



 村の子供たちのそんな会話が聞こえてきた。


 神様。


 そんな単語が聞こえて、俺はがっくりとした。


 俺が、この村に最初に来た時、急に出現したと思われたので神様だと勘違いされてしまった。その誤解を全力で解こうと思ったが、解けず今も続いている。この時代の人々の信心深さには驚嘆するところだった。ここまで粘り強く神様だと言われ続けるとは思ってもいなかった。こんな神様いたら俺としては本当の神様に対して大層失礼であらせられると思っちゃうんだけどな。神様を自称しているわけじゃないけど神様に失礼だと思ったので一応あらせられるとかなり丁寧に表現していこう。内心で思っていることだ。



 「俺は、神様じゃないんだけどな……」



 やっぱり、ここはしっかりとはっきりさせておきたかった。でも、ずっと説明してもダメだったのに今更納得することなどできないよな。


 どうすればいいんだか。



 「忠志君、どうかしたの?」



 俺と一緒に農作業をしていた佳奈美が声をかけてきた。手には、雑草が握られていた。現在、俺と一緒に田んぼの雑草を除去する仕事をしていた。


 泥だらけの田んぼ。入ったのは小学校の稲作体験以来であったので、この泥の官職がいまだにしっくりと来ていない。そんな俺に対して佳奈美はすっかり農作業に慣れていた。田んぼでの移動も俺よりもうまい。どこに差ができたのだろうか。俺にはわからない。



 「いや、ちょっと考え事をしてただけ」



 「あー、もしかしてまだ神様って呼ばれていること?」



 「うん、そうなんだ。さすがに神様呼ばわりされるのは嫌でね。神を名乗るなんて本当の神様からしたらとても罰当たりなことじゃないか」



 「へえ、意外。忠志君ってそういうこと思っていたんだ」



 「お前は俺をどういう人だと思っていたんだよ」



 俺は、佳奈美の言葉に呆れる。


 ちなみに、現代において別に俺は信心深いわけではない。キリスト教とか神様に対してとても神聖的な宗教にいたわけでもない。普通、一般の日本人と同様仏教と神道の両方がうちの宗教なんじゃないかなっていうぐらいのいわゆる無信教だった。


 だから、神様に対して悪いんじゃないかなって思ったのは信仰上の理由とかではなかった。でも、おそらく佳奈美はさっきの俺の話を俺が宗教を熱心に進行しているのではないかと思ってしまったと思う。


誤解はきちんと解いておかないといけない。ちゃんと説明をした。佳奈美は理解をしてくれたみたいだった。この時代の人に比べて科学の力によってある種の概念がなくなってくれたことは現代人には本当にありがたかった。佳奈美にしっかりと理解してもらえてよかった。



 「それにしても百姓って思った以上につらいんだね」



 佳奈美が雑草を手に持ち、額の汗をぬぐいながら俺に対して言う。



 「ああ。こんなに大変だとは思わなかった」



 「しかも、戦国時代って現代に比べて気温が低いのね。これでどうしてよく饑饉が起きたのか理由が分かったよ」



 「そうだな。俺は戦国時代に詳しくはないが、この気温だと現代に比べて食物の育成が少し遅いのかもしれないな。地球温暖化ってやはり起きていたのか」



 「地球は氷期と間氷期を繰り返しているから地球温暖化の説って私は信じていないけどね。現に、この時代は涼しいじゃん」



 「そういうもんか?」



 「そういうものなの」



 地球温暖化の説は、さておき俺らは農作業を終えると村に戻った。


 ちなみに畑で採ったゴボウを手に持っていた。少し収穫時期が遅れてしまったが、まだ食べられるものだと思う。


 村に俺らの家を作ってもらった。なので、今俺は佳奈美と一緒に過ごしている。だから、2か月の間に名前呼び捨てになったのだ。2か月同棲すりゃあ、そうなる。


 そんなわけで俺達は幸せな農村生活を始めたのだった。



                                  完。






























 という訳にはいかなかった。


 俺達のゆったりとした農業生活は再び邪魔されることとなる。このまま戦国時代で農業をもっと盛んにして日本人の生活をよくしてあげようじゃないかとある意味神様と言われても仕方ないおごれることをしようとしてしまった結果なのだろうか。


 よくよく考えてみる。ここは、戦国時代。武士が中心の世の中。百姓は武士にこき使われる、陰ながらの存在。戦に駆り出されることや兵糧、税を出すなどの下僕だ。


 百姓は武士に使われる。


 これが戦国いや、明治以前の江戸時代などの風潮だ。


 俺らが、家でゆっくりと食事をとろうとしているところに声がかけられた。



 「失礼するぞ」




 俺達のもとにある人物が尋ねに来たのだった。


 その人物とは──



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