第11話 寄合

 「何も言わないのであれば何かしらの事情があるのだと勝手に推測させてもらいます。まあ、私としては小僧は面白そうだ。この村には定期的に来るつもりだからこれからもごひいきにしてもらいたいものですな」


 商人はそう言うと、周りに出していた売り物─薬草を連雀に片付け始めた。

 どうやら今日のところはもうこの村から出るようだ。


 「では、また会えるといいな」


 商人はそう言い残すとそのまま建物から出て行ってしまった。

 俺自身、一応このあたりの情報を手に入れることができたのでまあ良しとしようと思った。

 しかし、ここが前橋だとしてもこれからどう生きていくか考えるのが本当に難しい現状は変わらない。そもそも前橋に北条高広といういたとしても彼について知らないのでどう行動していけばいいのかわからない。でも、1つだけ話を聞いていた中で思い出したことがあった。それは本能寺の変の直前に上野に来ていた滝川一益は本拠地として厩橋城を使っていたはずだ。そして、厩橋城は開場させていたはずなので戦になっているはずである。つまりは、北条高広という人はすぐに死ぬ運命にあるのかもしれないということだ。彼に取り入るという発想はここでなくなる。

 かと言って滝川一益に味方をしてもすぐに上司である織田信長は本能寺の変で死んでしまうし、しかも滝川一益は本能寺の変の友來合戦に参加することができず織田家内での後継者争いからもハブれて最後はひっそりと死んでしまうからこれもない。

 ここで独自に戦国大名になろうと考えてみたがその考えはとてつもなく甘ったれた考えだったのかもしれない。

 豊臣秀吉や石田三成のように誰かに仕えて出世していくという行動が極めて難しいこの群馬の地ではまず武士になるということが無理だ。

 ……諦めるしかないのか。何か手は残っていないのか。

 今までずっと考えていた。でも、結局のところ何もいい案が思い浮かばない。俺の戦国時代の知識が不足していることがすべてだ。

 何で、戦国時代にタイムスリップしてしまったんだよ。これが、明治時代の群馬とか大正時代の群馬とかだったら何をすべきかわかるのに。

 戦国時代の群馬。それは21世紀未来で言う未開の地グンマーとかのネタ思いっきりの状況だ。


 「終わった」


 商人がいた建物を出る。

 向かう先は村長のいる建物だ。

 理由は簡単。今日俺はこの村に来た。なぜか神様だと思われて。その誤解今も解けていない。そして、村長に言われたことがある。商人に会った後は私のところまで来なさいと。理由は俺が今日村に来たので泊まる家も場所もないからだ。村長が俺が商人と話している間に村の中でも有力な人々とどうするのか相談すると言っていた。

 あれかれまあまあの時間が経った。そろそろ相談の結果が決まっているころ愛だと思って村長がいる建物を目指す。

 村長がいる建物は高床式のもので、この村で一番大きく高い建物だった。村の中心に位置していたので本当に分かりやすかった。


 「村長」


 俺はそう言って建物の中に入る。

 建物の中にはぼろぼろの布を着て体中が汚れているような5人の男と村長がいた。この5人が有力な人なのか。

 しかし、有力だというのに体中がボロボロの汚さでいいのか。ちょっと思ってしまったが、その泥は畑仕事をして着いたものだというのを5人の男の後ろにおかれていた鍬を見て思い浮かんだ。

 農村だから農民がいるのは当たり前だ。そりゃあ、泥まみれになったりするわけだ。俺は反省しないといけない。人を見た目で判断をしてはいけない。この時代の人たちは生きるために頑張って畑や田を耕したんだから。そういった人たちをしっかりと感謝をしなくてはいけない。


 「何じゃ、小僧」


 俺が村長と言うと、返答してきたのは村長ではなくて一番俺に近いところにいた男であった。

 男は俺に対してぎろりと鋭い目つきでにらんできた。

 おっかない。商人に叱りこの男に叱り戦国時代って殺伐としているからなのかみんな怖いんだけど。

 俺は怖くて膝がガクブルしていた。

 もしこれがもっと鋭い目つきであったならばおしっこ漏らしていたかもしれない。そう考えるとまだ怖くないのか。でも、やっぱり怖い。


 「村長に言われてここに来たのですが……」


 怖くて後半の言葉は徐々に小さくなっていく。根暗か。自分でもそう思ってしまうほどの声の大きさだったと思う。


 「村長どういうことだ。こんな小僧をこの神聖な寄合の場に来させるとは!」


 男が吠える。

 村長に対して普段から敵対心を持っている男なのだろう。男が村長の失態を好機と見るばかりに責めているのを見てここの人間関係についてざっくりとだがわかったような気がした。

 批判された村長は目を閉じて動揺することなどせずに落ち着いている。

 男は村長が黙っていることを言いことにどんどんと批判する。次から次へと非難の言葉が口から出てくる。中には現代人の俺には理解できないような言い回しもありすごく汚らしいということだけはわかった。元の時代に戻ったら嫌いな奴にこっそり使ってやろうかと思ったのは俺の心が汚れている証拠なのだろうか。

 まあ、俺のことはどうでもいいとする。

 村長の方が大事だ。最初にあったときにはジジイと言っていた村長であるが、ひげをいじって男に対して痛烈な一言を言い放つ。


 「格介さんや。この方は何もない場所から突如として光と共に現れた。つまりはこの世の人間ではないのよ。神様だ。その神様に対して無礼ではないのか」


 「か、神様だと!?」


 男は村長の言葉を聞いて動揺する。顔色が一気に真っ青へと変化する。

 この時代の人々は今に比べて宗教的に信仰心がある。それは日本史を学んでいるとわかることがある。そして、この今まで村長をかなり罵倒していた男も例外ではないようだ。男はそのまま俺に対して土下座をする。


 「神様になんて無礼なことを申し訳ありません」


 全力で土下座をされて俺はむしろ困る。

 俺は神様じゃないとか言ってもここでも信じてもらえない。しばらく厄介な土下座の対応をする羽目になるのであった。

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