第9話 商人に会いましょう
村の一角にある少し立派な建屋。
これが商人のいる場所らしい。なんでも商人自らがこの村にちょくちょくよるため自分で作ったとか。自分が商いをする場所ぐらい自分で用意をする。それがモットーの変わり者らしい。ちなみにこれらの情報はすべてマツに聞いたものだ。
立派な建屋とはどういうものかというと何の木で作られたものかわからないが、きっと高い木材を利用した建物がそびえたっていた。わかりやすく今風の家で例えるのであれば軽井沢あたりに建てられている有名人や金持ちの別荘のようなログハウスとでも言っておくべきか。そんな家が俺の目の前にあった。他の周りの家とは明らかに作りが異なっていた。
「す、すごい」
この時代の商人というのはそれほどの力やお金を持っていたのか。
何度も言うが俺の専門は近代史だ。それも政治史である。他の時代もとりあえず最低限度の子とは知っているがそれは政治史の話。経済史についてはとりわけ嫌いというまでも行かないが興味があまりなかったので詳しく知らない。よって、この時代の商人のことなんて詳しくまで知らない。連雀商人という言葉を知っていたことがむしろ限界ぐらいだ。
この建物に入ることを少し戸惑うもこの世界の情勢について知りたいという好奇心の方が俺にとっては上だった。
だから、建物の中に入る。
建物の中に入るとすぐに靴を脱いで上がる場所となっていた。昔行ったばあちゃんの家もこのような作りだったなあと思い出す。
靴を脱ぐと囲炉裏がある部屋だった。囲炉裏を挟んで1人の男が座っていた。髪は生えていない。一瞬お坊さんだと思ったが、その男の後ろには連雀があったのでこれが例の商人であると納得する。商人は突然入ってきた俺に対して驚くような様子もなくただ一言発する。
「何用でここに来た」
その言葉を聞いた瞬間に俺は少しビビってしまった。
何だろうか。声にどこか重さを感じた。この感覚、現代では味わったことがないものだ。不思議な感覚だった。
「この村に商人が来たと聞いて話を伺いに来たのですが……」
臆せずにここに来た訳を話す。商人にどうして会いたいのか理由を言うだけの話だが、先ほどの商人のオーラに負けて発した言葉の最後はごにょごにょと小さい声で聞こえないものになってしまった。だって、オーラやべえよ。こえーよ。マジでやばい。
現代人からしてあの人はやばい、危険という気がする。
やはりあったのは間違いだったのだろうか。自分に自信が持てなくなってくる。
一方の商人の方は俺の言葉を聞いて警戒心を和らげる。先ほどまで不機嫌だといかにも主張しているオーラを消した。
「ふぅ」
俺はオーラがなくなるとつい気を緩めてしまった。
え、えぇっと。この時代の人ってこんな風に殺気の様なオーラを誰でも出せるんかい。同じ人間だとは全く思えない。
「で、小僧。話を聞きに来たと言うが何だ」
やっぱり怖い。
言葉づかいが怖い。
「実は俺は放浪中の身なんですがここの村には偶然ついてしまって。ここはどこなのか詳しくはわかっていないのです。ここがどこなのか、領主様の名前を聞いておきたくて話を聞きに参りました」
ヘタな丁寧語だが自分が今もてる限りの丁寧な言葉を使ったつもりはある。でも、やっぱり下手なんだよな。
何で自分で下手だと言ったかというと、話を聞いている商人の方が俺の言葉を聞いている間ずっと眉毛をピクピクと動かしていた。威圧してくる。その行動を見て俺はしぼんでいく。やっぱりこええ。しかし、態度とは裏腹にしっかりと商人は俺の疑問について答えてくれるのだった。
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