第8話 娘

 村民が密集していた集会所をどうにか抜ける。


 「はあ!」


 息ができなかった。あれだ。これはきっと酸欠なんだろう。大勢の人ごみの中を歩くと酸欠になってしまうのか。初めて知ったわ。きっと元の世界のコ〇ケとかも大勢の人ごみの中を歩き回るから酸欠で倒れる人がたくさんいたんだろうね……はい、きっとそんなことないですよね。俺が体力内だけなんだよな。

 っていうのはどうでもいい話だ。今はそんなことを考えたりしている場合じゃない。商人に会わなくてはいけないんだ。

 酸欠で意識が少しもうろうとする。頭が痛い。

 これほどつらいのか。よく部活とかですおーつをやっている人は生きていられるな。あと、世の中のサラリーマン。あんな真夏の密集している満員電車で毎日通学とか人間業じゃないわ。

 いろいろと他の人に対して尊敬の念がなぜか生まれていたが、それはきっと酸欠で頭がおかしいからだ。うん、そうに違いない。

 俺は、ゾンビのように歩いて少し離れた建屋にいるらしい商人の元へと向かう。ゾンビのようなので手は前に出し体勢は低くなっている。もちろん顔は下を向いている。前なんかまったく向いていなかった。どうせ人がそんなにいないのだからどうでもいいだろう。そう思っていたのだ。しかし、そんな考えは実に甘かった。


 むにゅ


 「ん?」


 なんか柔らかいものに手が当たったぞ。

 何だろこのやわらかいもの。

 俺はその柔らかいものをもう少し触ってみる。


 むにゅむにゅ


 柔らかい。何だろう本当にこれ。柔らかくて気持ちいい。少し人のようなぬくもりが……って人!

 俺は顔をあげてみる。

 すると、そこで見たものは目の前に女の人がいた。年齢は俺よりも少し上ぐらいの人だろう。戦国時代の日本人ということもあり黒髪で後ろの髪は1つに縛っている。いわゆるポニーテールってやつだ。でも、確か女の人の髪って切って売れば高くなるはずだ。つまりそのためにこの髪を伸ばしているのだとすれはもう少ししたら切っちゃうと思うともったいない。服装はマツと同じように麻でできた服であった。

 そして、かわいい。とてもきれいな人であって。

 ん? そんなことはどうでもいいよな。そう、俺が先ほどから感じていた感触が何であったのか知りたいはずだよな。

 俺も知りたい。

 恐る恐る何となく嫌な気がした。目線を徐々に下げていく。顔から首、首から胸に……胸に。

 俺の右手はどうも胸を触っていたようだ。いや、触っていたどころではない。揉んでいたのだ。人生初の女性の胸を触っていや、揉んでしまった。とてもラッキースケベな展開だ。これはうれしい……なんて思っていられるのは第三者だけだ。本人からしてみれば全く知らない男にいきなり胸を触られている。とても嫌な展開だ。

 また恐る恐る顔をあげていく。胸から首、首から顔。

 その女性の顔色は特に変わったところはなかった。


 「あ、あのすみません」


 「あなたはこの村の人ではありませんね」


 誤ってみた。とりあえずそれが優先すべきことだと思ったから。しかし、帰ってきた返事は俺がこの村の人ではないということだ。

 えっと、俺が胸を触っていたことについてはスルーなのですか。ラッキーなのか、それともこの時代の人にとってそれほど貞操観というものがなかったのか、はたまた胸を触るという行為がなかったのかわからないが俺はどうやら助かったらしい。

 そこで話を彼女の方に合わせることにする。


 「ええ、先ほど村長さんに連れてきてもらいました。小田忠志と言います。よろしく」


 俺はきちんと自分がこの村の人ではないということを伝える。彼女は俺の言葉を聞くとどうやら納得したようだ。

 意外と排他的な人ではないようだ。俺がよそ者だと知って襲ってくるのだとつい思ってしまった。

 そして、彼女も律儀に自己紹介をする。


 「私の名前はきくです。父はこの村の村長です」


 どうやら彼女は村長の娘だったようだ。

 どうしよう。もし、娘に手を出したなんて知られたら怒られるんじゃ。それだけじゃなくって殺されるかも。いや、胸だけだから村からの追放になるだけかも。

 いろいろと俺の頭の中に不安が宿ってきた。

 きくにさっきのことをもう一度謝ろうと思ったが、俺が考え事をしている一瞬のうちにどっかに言ってしまった。

 え、ええっと。これってどうすればいいんだ。

 悩み事を抱え永ながら仕方なく承認を探すことにしたのだった。

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