第5話 蜘蛛、女子恐ろしや

 マツに連れられて村へ行くこととなる。

 村への道は木々がたくさん生えており森と言っていい状態であった。普段自分が見ていた街並みとはとても違い新鮮に感じてしまう。自分が住んでいたのはネット上では未開の地として揶揄されている現代群馬であるが、それでもこんな森だらけではない。これぞまさに本当の未開の地であると言える。

 平安時代などでは、日本の中心は京の都であった。それに比べて群馬など現在の首都圏に位置する地域は東国といわれており何もない未開の地であった。東京などが栄え始めるのは1603年に江戸幕府ができる前に豊臣政権において徳川家康が関東に領地替えを命じられ江戸を発展させた場所からだ。

 なので、まだ関東というとものすごいド田舎なのだ。

 それが、本当に分かる。


 「う、うわあ」


 いきなり虫が飛んできた。


 「?」


 マツが不思議な表情をしている。まるで、どうしてこれぐらいで驚いたのとでも言いたそうな表情だ。

 この時代の人は平気なのか?

 それとも俺がビビり過ぎているだけなのか。おそらくは前者であると俺は信じたい。だって、女子だったら絶対に「きゃああああああ」とか言って黄色い声を出しているはずだ。だから、俺は正常、正常……のはず。

 俺の目の前に大きな蜘蛛が現れた。


 「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 く、蜘蛛おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 俺は自分が苦手な昆虫? というか虫ランキング一位に当たる蜘蛛が顔の前に急に現れたのに驚き大きな悲鳴を出す。

 だ、だって、こんなに気持ち悪い虫なんか見たくない。男でも女でも関係ない。こんな気持ち悪いの。気持ち悪いの。

 俺の頭の中は気持ち悪いの一言だけで回っていた。


 「神様、急にそんな大声を上げてどうしましたか……ああ、この虫がどうかしたんですね」


 マツはそう言うと、何事もなかったかのように蜘蛛を手でつかむ。

 へっ?

 何でそんな簡単に手でつかむことができるんだ。

 この時代の女子ってそんなに虫に対しての恐怖心というのは存在していないのか。

 この女子、げに恐ろしや。

 

 「神様、見てください。かわいいですよ」


 マツは手でつかんだ蜘蛛を俺の元へとさらに近づけてくる。

 や、やめろ。

 蜘蛛のどこがかわいいんだ。

 かわいいという要素が一つとしてないだろう。

 やめてくれ。


 「いいから、マツ。それよりも早く村を紹介してくれ」


 「わかりました」


 マツは蜘蛛をポイッと投げ捨てた。


 「……」


 その動作を見てすごいとしか思えなかった。


 「では、行きましょう。もう少しですよ」


 そういうと、目の前に集落らしいものが見えてきたのだった。

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