「それはミャイの価値観でしょう」

「私の知り合い……、か」

 ミャイと会うまでの私の知り合いといえば、ご主人しかいない。ご主人はどうしていただろう。ああ、そうだ。寝床から出たご主人は着替えをしていた。あれも、そういうことなのだろうか。

「……していた、と、思う」

 記憶を探りつつ、はたしてそれがミャイの言う通りのものなのか疑いながら答える。

「ほらね!」

 ミャイは得意な顔をして、私の前足に前足をからみつけた。

「それじゃあ、さっさとご飯を食べて準備をしましょ! 私の恰好は決まったけど、モケモフさんのは決まってないから……」

「決まっている」

 嫌な予感がしたのでミャイの言葉を遮った。

「え? 決まってるって……、自分でコーディネイトを考えたの?」

「ああ」

「へえ! どんな、どんな? 見たい見たい」

「まずは食事だ。そうだろう?」

「じゃあ、はやくご飯を食べちゃって、モケモフさんの恰好を見せてもらおうっ!」

 うふふとはしゃぐミャイの期待に添えないものだがな。

 がっかりされるのか。それともあきれられるのか。ダメ出しをされてあちこちにリボンをくっつけられるのか。

 おそらく最後の予想が当たるだろう。

 さて、どうそれを断ればいいのか。

 食卓に着き、ウキウキしているミャイを横目で見ながら考えるも、いいアイデアなど浮かばない。

「それで、どんな格好をするの? 私の見たことのあるリボン? それとも新しいものを、知らないうちに買っていた……、っていうのはないか。だってずっと一緒にいたもんね」

 ぎこちなく笑いかけながら食べていると、ミャイの母に目配せをされた。察してくれているらしい。

「ミャイ。人にはそれぞれ、好みというものがあるし、ふさわしい、似合う恰好は誰もが違っているものだからね」

「そんなの、わかってるわよぉ。でも、モケモフさんって毛足が長いし手触りもとってもいいから、それを活かしたおしゃれをしないと、もったいないと思うのよね」

「それはミャイの価値観でしょう」

 わずかに厳しくとがめる声に、ミャイは肩をすくめて私に救いを求める目を向けた。

 ここでとりなせば、台無しになってしまう。なにより私自身の首を絞めることになる。

 会話の部外者の顔をしていると、ミャイの視線が強くなった。

「ミャイ」

 たしなめる母の声に、ミャイがむくれて「わかっているわよ」と答えたが、わかっていてアレならば、よほど私を着飾りたいのか、甘えているのか。

「だって、モケモフさんの毛並み、すごく気持ちがいいし長いから、私ができないことができるんだもん」

「自分ができないことを、人の好みも考えずに押しつけて、嫌われてもいいのね?」

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