作業台の上の殻粉が、私の息に流される。
「ねえねえ! これってどうかな」
家の食品庫の奥にしつらえてもらった私の仕事場の扉を、ミャイが勢いよく開く。いつもなら木の実の殻などが舞い飛ぶのでノックをしてから、慎重に入ってくるのに珍しい。
「粉がつく……ぞ」
割りかけのクルミを脇に置こうとした私は動けなくなった。私の視線を受けたミャイが「えへへ」と照れくさそうに首をかしげる。
「ミャイ。その恰好は……」
「昨日、おかあさんに出してもらったの。かわいいでしょっ」
くるりと回ったミャイを包む布が、ふわりと空気をはらんで膨らむ。なびくリボンとしっぽがともに踊っているような、腰に大きなリボンのついたワンピースを着たミャイは、そろいの布で作られたリボンで耳を飾っていた。首回りには昨日ゴンにもらった飾りボタンのような、キラキラとしたものが弧を描いている。
私もこのような格好をしなければならないのだろうか。
「ねえ、もう仕事は終わるでしょ」
扉を開けはしたが入ってこないままで、ミャイは室内を見回した。
「ああ。これを割れば終わりだ」
置こうとしていたクルミを持ち上げて見せると、ミャイはほほえんで右前足の肉球を私に見せた。
「それじゃあ、終わったらすぐにリビングに来てね! モケモフさんも、うんとオシャレをしなくっちゃ」
言い終わると鼻歌を残してミャイは扉を閉めた。
……私もあのように、ヒラヒラふわふわとした布で体を包み、大きな帯でリボンを結ばれるのか。
毛先に細かく重たいものが絡みついた気分になりつつ、私は最後のクルミを割り終えて袋に詰めた。目の奥に残ったミャイの姿を見つめると、仕事場から出る気がそがれる。
ふう。
作業台の上の殻粉が、私の息に流される。
こうしていても仕方がないとはわかっているが、あのような格好をせねばならぬ可能性を思うと腰を上げる気になれない。
さて。
いつもどおりの恰好で行きたいとミャイに納得させるには、なんと言えばいいだろう。
袋の口を縛って木の実屋が取りに来るのを待っていると、バタンと扉が開かれた。
「木の実の引き渡しはおとうさんにまかせて、はやく出てらっしゃいよ」
ふたたび現れたミャイは、いつもの簡素なリボン姿に戻っていた。
「ミャイ。さきほどの恰好では行かないのか」
「ん? あれで行くわよ」
「ならばなぜ、いつも通りの恰好に戻ったんだ」
「お昼ごはんを食べてから、また着替えるの。だって、ご飯のときにうっかり汚しちゃったら困るでしょ」
「そういうものか」
「そういうものなの。普段のときと、おでかけのときは着替えるものなの! モケモフさんの知り合いとかお友達は、そういうことをしていなかったの?」
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