「家が、老いるのか」

「あそこまでになるには時間がかかる。向き不向きもある。なによりモケモフさん。あんたは――」

 ゴンが私の前足に視線を移した。私も自分の前足を見る。犬や猫とくらべれば、ずっと短くてちいさいそれは、道具を握るには適さないとゴンは言いたいのだろう。

「私は向いていないようだな」

 ゴンはなぐさめの気配を苦笑に混ぜてミャイを見た。

「かと言って、ミャイに教えるわけにもいかんしな」

「あら。なにも家を建てられるくらいの技術を身に着けようっていうんじゃないわ。あの小屋の入り口を、ちゃんと入り口として使えるようにできて、階段が登れればいいだけだから」

 そんな簡単なものじゃないという顔で、ゴンが首を振ってから私を見る。同意を求められていると察した。

「ミャイ。ことはそう簡単ではなさそうだぞ」

「ええ? ドアを開けて階段を上るだけなのに」

「階段が腐っていたらどうする。それに、階段だけじゃなく床も腐っている可能性がある。誰も済まなくなった家は急速に老いるんだ」

「お、いる?」

 キョトンとするミャイと同様、私も疑問を浮かべた。

「家が、老いるのか」

 生き物ではないのに?

 ゴンはハッキリと首肯して、建設中の家を見た。

「家ってぇモンは、住むヤツとともに生きるんだ。家を見れば、そいつがどんな生活をしているのかが、よくわかる。どれだけ長く建っていても、ちっとも古びねぇ家もあれば、新しいのにボロッちくなる家もある。どれだけ住人が大切に扱うか。それが家の寿命になるんだ」

「誰も世話をするヒトがいなかったら、死んじゃうってこと?」

 ミャイの質問に、ゴンは「そうだ」と目を細める。

「家ってぇのは、ヒトと生きていくもんだ。手入れをしねぇとなんでもすぐに悪くなるだろう? それとおなじさ。家はそれが顕著なんだよ」

「毛づくろとかちゃんとしていないと、すっごいおばあさんみたいになったりするものね」

 言いながら、ミャイが頭のリボンをいじくった。ハッハとゴンが声を立てて笑い、それとおなじだとミャイの頭を軽く撫でる。

「そういうわけだから、その森の家も老いているだろうってぇ予測だ。だから簡単な話じゃないのさ」

「なるほど」

 専門家がそう言うのであれば、その意見を汲むほかはない。

「ミャイ」

 意見を求めると、ミャイは困りつつもふてくされた顔でうつむいた。

「それじゃあ、どうすればいいのよぉ」

 すぐにでも探索できると考えていたらしいミャイの落胆は、どうすれば浮上させられるのか。考える私に、ゴンが軽く親指を立てて見せた。

「なぁに。そんなに落ち込むことはない。専門家を連れていけばいいだけのことだろう?」

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