「だったら、それでいいんじゃない?」

 頭が痛くなってきた。

「大丈夫?」

「ああ……。なんだか、よくわからなくなってきただけだ」

「考えすぎたのね。私もなるなる。勉強をしていたら、頭がイーッてなるの」

 そう言いながら、イーッという顔をされたが、その「イーッ」となるが理解できない。おそらく現状の頭痛に近い感覚だとは思うが、それが「イーッ」という感じかと言われると、そうではない気がする。

 まあ、ヒトの感じ方はそれぞれだから、ミャイにとっては「イーッ」なのだろう。

「私は無駄なものに金を使っている気はないが、歯が欠けてしまった場合などを思うと不安になる。そのために貯蓄をと考えてみたのだが、削るべきものも不要なものもないという結論に達した」

「だったら、それでいいんじゃない?」

「……あの犬の申し出を受けておけばよかったのかと、すこし思ったのだが」

「もうっ! それは断ってよかったって結論が出たでしょう? それで体を壊しちゃったら、意味ないじゃない。ええっと、なんて言うんだっけ。ほん……、ほん…………。まあいいや。準備のためにしていたはずが、その準備のせいで台無しになったらバカみたいでしょ。だから、それは断ってよかったのよ」

「うむ……」

 そう考えた。それなのに私は迷っている。先の不安、根拠のない不安とでもいうのだろうか。いつなんどき、どのようなことになるかわからない。そのための備えは必要だ。だが、その備えのために現在をおろそかにしてもいいものか。おろそかにするほど不要なことなのか。

「モケモフさん、すっごい怖い顔になってるよ」

 鼻先をくすぐられてハッとする。

「そんなに難しく考えなくっても、いいじゃない」

「う、む……」

「先のことなんて、ぜんっぜんわかんないんだから。もしもケガをするかもって心配なら、ケガをしないように気をつければいいし、病気になるかもって思うのなら、ならないように休んだり運動したり食べるものを考えればいいし、それでもなったらなったで、そのときにどうすればいいか、なにができるか考えたらいいんじゃない?」

 カラッとしたミャイの声に、それもそうだと感じる私と、そうは言ってもと反論を浮かべる私がいる。

 いったい私はどうしたというのか。ケージの中での生活では、そのような心配などしたことがなかった。エサは必ずおなじ時間に与えられる。ときおりはヒマワリの種やクッキー、豆腐や野菜なども与えられる。散歩も、毎日ではないが行える。私が望んで出られる場合と、そうではない場合はあるが、そのあたりは置いておくとして、先の不安のために現在の満腹を削り、エサを貯めておくなどしなかった。ヒマワリの種を貯めることはあったが、その場で食べきれないから置いていただけだ。

 ここに来てさまざまのことを知り、意識が変化したのだな。

 私は腕に絡みつくミャイを見た。

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