「興味はないけど、興味はあるのよ」

「なにを、ニヤニヤしているの?」

 飛び跳ねながら戻ってきたミャイが私の顔をのぞき込む。

「考えていたのだ」

「なにを?」

「仕事についてだ」

 どういうこと? とミャイが表情で問うてくる。

「ミャイの言いたいことと、犬たちの求めとを比べていたんだ」

「なんで?」

「気になったからだ」

「ふうん」

 よくわからないけどまあいいや、と聞こえた。

「歩きながら考えるから、ミャイは気にせず先導してくれ」

 むうっと唇を尖らせたミャイが、私の前足に前足を絡めて横に並んだ。

「いっしょにいるのに別々なんてイヤだから、話をしながら行きましょ」

「興味がないのではないのか」

「あんまりないけど、……でも、話を聞きたいの」

「無理に私に付き合う必要などないぞ、ミャイ。目的地に着くまでは、それそれ好きに過ごせばいいだろう」

 むうっとミャイが不機嫌に目を半分だけ閉じる。私はなにか間違ったことを言っただろうか。

「それはそうかもしれないけど、それだとずっとモケモフさんのことがわかんないじゃない」

 どういうことか、さっぱりわからぬ。

「どんなふうに考えているのか、教えてほしいの」

「興味がなにのにか?」

「興味はないけど、興味はあるのよ」

「?」

 なにが言いたいのか。

「仕事についてのことは興味ないけど、モケモフさんには興味があるの」

 ますます、わからぬ。

「えっとね。えっと……、そのものには興味ないし、どうでもいいんだけど、モケモフさんのことは知りたいから、だから興味ないけど興味あるの」

 考え考え口にしたミャイの言葉を吟味する。

 仕事についての見解を、ミャイはしっかり持っている。だから、それについては興味がない。しかし私のことは知りたいので、その話をしろと言う。――それは、つまり。

「私の考えを知りたい、ということか」

「まあ、そういうことになるのかな」

 私の答えとミャイの思いにはズレがあるようだ。

「どういうことだ」

 間違いではないが正解ではない、という状況はみぞおちのあたりがスッキリしない。ミャイはちょっと考えてから、慎重に言葉を出した。

「私はリボンが好きだけど、モケモフさんはリボンなんて興味ないでしょう? でも、私がリボンを見たいって言ったらついてきてくれるわよね」

「うむ」

「それって、どうして?」

「ミャイが行きたがるからだ」

「それだけ? それだけなら私が見ている間はお店の外にいるとか、別の興味のあるお店にいるとか、お茶して待ってるとか、そういうのでもいいじゃない。それなのにモケモフさんは、私がリボンを見ている横にいてくれて、時々は私が好きそうだってリボンを選んでもくれるでしょう」

 たしかに、私はミャイがリボンをはじめとしたアクセサリー見物をしている最中、ウキウキするミャイの傍から離れない。自分だけでは見ようとも思わぬ品々を、ミャイと共にいるときだけは物色している。そしてそれが心なしか楽しく思っている。

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