気遣い、いたみいる

「その、ご主人ってのがどうとかこうとかは、よくわかりませんがねぇ。モケモフさんに似合いの職業だと思いますよ。……ええと、たしか看板を出して、客を募るなんて話もしていましたよね」

 木の実屋の問いに、ミャイの父親がうなずいた。

「そうすれば、木の実のほかのいろいろも、需要が出てくるんじゃないかと思ってね」

「なるほど。鍵を失くした木箱を開ける、という仕事あたりも、モケモフさんの仕事ぶりならできそうだ」

 私は驚いた。そのような可能性など、考えてみたこともなかった。

「木の実だけでは、充分な収入が得られるかどうかわからないし、そうじゃない仕事もできるとなれば、町の連中との交流も増えていいだろう」

 ミャイの父親は、私の交友の心配もしてくれていたらしい。

 なるほど。

 ハムスターという見知らぬ種族と、どう接していいのかわからぬ町の者らと私の橋渡しになるかもしれぬ。

「気遣い、いたみいる」

 ミャイの父親は、笑って顔の前で前足を振った。照れているらしい。好感の持てる御仁だ。

「いつまでも腫れ物を扱うような態度をされたら、居心地悪いものね」

 ミャイが私の前足を掴んだ。

「自由に買い物に出られないなんて、すっごいストレスだわ」

 ぷんっと頬をふくらませたミャイに苦笑する。

 ミャイは相当、買い物が好きなようだ。

「ふむふむ。そういう意図なんですね。ですが、ちょっとそれは、待ったほうがいいんじゃないんですかねぇ」

 木の実屋が鼻の頭にシワを寄せた。

「なぜだ」

「モケモフさんの顎が心配なんですよ」

「私の、顎?」

「ええ、そうです」

 難しい顔で、木の実屋が前足を組んだ。

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