モケモフさんは、道具を使わずに殻を割るんだ

 翌日。

 ミャイの父が木の実屋の店主という、茶色の犬を連れてきた。耳がピンと尖っており、狐に見えなくもない。

「この方が、クルミをあっという間に割ってしまえるのですかぁ」

 ふうむふむと、鼻を慣らして私を眺める。

 なかなか失礼な態度だが、まあ許してやろう。私が失礼と思っているだけで、犬の世界では通常のことかもしれぬからな。

 妙なことだとしたら、ミャイが大騒ぎをするだろうし。

「この細い手で、木槌を振りまわせるとは思えないのですがねぇ」

 妙な節のついた言葉遣いで、木の実屋は私の前足をジロジロと見た。たしかに、犬や猫と比べれば、私の足は細い。

「モケモフさんは、道具を使わずに殻を割るんだ」

 ミャイの父親が言えば、木の実屋はますます疑わしげな顔になった。

「なら、どうやって割るんですぅ? 床に叩き落とすんですか。それとも、頭突きでもして、パカリとやっちゃうんですかねぇ」

 バカにしているのか、と思ったが、どうも木の実屋は普段から、こういう物言いのようだ。ミャイもミャイの父親も、気にしている様子はない。気にするよりも、こういうものだと受け入れたほうがよさそうだ。

「それでは、ためしにクルミを3つ持ってきましたから、ちょっと割ってもらえますかねぇ」

「承知した」

 私はクルミのひとつに前足を伸ばし、くるくると外周をたしかめ、口を開いた。

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