私は毛玉ではない。ハムスターだ。

水戸けい

はじまりは、木の実だった。

我が名はモケモフ。

 まったく。なんだってこんなことになったのか、自分でもわからない。

 妙な木の実をご主人に食べさせられたと思ったら、わけのわからない事態に、おちいってしまった。

「なんで、こんなところに、でっかい毛玉なんか、あるんだよ」

 私が落ち込んでいると、そんな声をかけられた。

「私は毛玉ではない。ハムスターだ」

「ひぇえ! 毛玉がしゃべった」

 わああ、と両腕をふりまわしながら、私に文句をつけた奴が、走り去っていった。

 失礼な。

 たしかに、私は毛玉に見えるかもしれない。ご主人も私のことを、毛玉のようだと、言っていた。

 こう、私が丸くなって眠っていると、とろけるような甘い声で、言っていたのだ。

「モケモフは、ほんと、毛玉みたいよねぇ」

 そう。

 私の名は、モケモフ。

 ハムスターだ。

 毛は長い。

 なので、あちこちに、いろいろなものが、からまりつく。

 ご主人はそれをいつも、楽しそうにブラッシングでとってくれる。

 まれに、めんどうくさそうに、怒りの声を発しながら、ハサミでちょんぎる。

 なので私の毛は、シリのあたりがすこし、ガタガタしている。

「ここです! 喋る毛玉がいるのは」

 さきほどの、走って去った奴だろうか。いや、ほかにいるまい。私の姿を見たものは、あ奴しか、おらぬのだから。

 私はゆっくりと、振り向いた。

 

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