2-2-3) 新しい生活
お久しぶりです。やっと更新再開できます!
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目の前の店員さんが目を丸くしている。まあ、いきなり「過去からやってきたんです」なんて言われたらそうなるよね...分かるよ、うん。
「申し訳ありませんお客様、よく聞き取れなかったのですが...」
「えっと.....信じてもらえるか分かりませんが、私、過去から飛ばされてきたんです。何故か。」
「過去から...本当に過去から来たのか...」
「なので口座はないし保護者はこの時代には居ません」
「それは申し訳ないことをお聞きしました...」
「いえいえ!店員さんは何も悪く無いです」
「それではどうしようか...口座番号がないと取引ができないなぁ...」
「ではお金は手に入らないのですか?」
「今のままだと正直言って無理です。口座は自分で作るものではなく戸籍登録した際に一緒に作られるものなので、新しく作ることは無理ですね...」
そうか、生まれた時に作るのか。今の時代は子供の時から一人一つ自分の口座を持つのね。
「なのでお客様と取引は......あ!」
「え?」
「もしかしたら...できるかもしれません」
「何がですか?」
「口座ですよ口座!もしかしたら戸籍登録できるかもしれません」
「でも私もう17歳ですし...」
「"帰化"ですよ」
「帰化?」
「はい。大和皇国以外で生まれた方が大和皇国に帰化する際に戸籍を作るんです。その際に口座も作られたはずです」
「外人になるのか...でも、外国語とか話せないですよ?英語はほんの少しだけ...」
「英語?ああ、ブリテンが使っている言葉ですね」
「え、今は英語は主流じゃないんですか?」
「英語を使ってる人なんて西語使ってる人より少ないですよ。それに皇語が喋れてもおかしくないです」
「せいご...?こうご...?」
「西語はUAの言語、皇語は今話している言語です。昔はなんて言ってましたか?」
「西語はよくわからないけど...フランス語?EAって多分EUみたいなやつだよね...皇語は日本語だけど...それにおかしくないってどういうことですか?」
「いまはどの国も皇語を話せる人は一定数居ます。世界言語と言えば分かりやすいでしょうか」
驚いた。200年でグローバルスタンダードが英語から日本語になったのか。しかも英語話す人減りすぎでしょ...
「それじゃあその手続はどこでやればいいでしょうか」
「外に出るとわかりますが、北に大きなビルがあります。そこが役所なのでそこで手続きしてください。だけど一つ問題が...」
「問題?」
「外国の人間って証明が必要なんですよ。その国が発行した」
デスヨネー...
そんな証明もなしに簡単に帰化できるようじゃ、一人で二つの戸籍とか作れちゃうよね...
「でも...いやこれは...他に使うタイミング無いしな...でも...ああどうしよう」
「どうしたんですか?」
「あ、いや...その、ここだけの話ですよ?」
そう言って木鉛は小さな声になって凛に話し始めた。
「実はその証明書、偽造できちゃうんです」
「えええ!?」
「シー、声が大きい!」
「あああ、すいません...」
「それで、顔写真が必要だから、写真だけ撮らせてくれればすぐに作れるよ」
「お願いしてもいいですか?」
「もちろん!想像上のお話だったタイムリープが目の前で起きたんだ、援助は惜しまないよ!」
言葉遣いが変わってる事に気付かずなんだか楽しんでそうな木鉛だが、凛はとりあえずの予定ができた事でひと安心していた。
(とりあえずもらった証明書で外国から帰化した形で戸籍を作る...と)
「では写真取らせていただきます...はいありがとうございます」
「え、もう撮ったんですか?」
「え?はい。もう少し待っててください。俺の秘蔵コレクション引っ張ってくるので」
秘蔵コレクションってなんぞや...と思いつつも至る所で時代の変化を感じさせられる凛であった。
木鉛がもって来たのはいかにもな文章の書いてある手帳だった。
「これはコレクターの友達からもらった証明書の作製"直前"のもので、写真貼って名前書いて透かし作れば完成、ってやつですな」
「そんな大事なものもらっていいんですか?」
「今使わなかったら使う機会無いですし」
「......本当にありがとうございます」
「いえいえ、お気になさらずにね」
そして数分の後、木鉛が手にしていたのは凛の名前が刻まれた手帳。見事に透かしもできていて完璧だった。
木鉛は役所での手続きを詳しく教えてくれた。そして帰化人として知っておくべきこと、もともと住んでいた(と偽る予定の)国の話。
「まあ役所の人もそこまで事細かに聞いては来ないでしょ」
「そうなんですか...」
「まあ頑張るんだ、それが終わったらまたそのお宝持ってここ来てくれよな」
そう言って売る予定だった硬貨を渡す木鉛。
凛はお店を出て言われたとおり北を目指した。あの距離なら少し歩けば着くだろうと考えていたが、木鉛は車を用意してくれたようで、その車に乗って凛は役場へと向かった。
相変わらず外では車がひっきりなしにお店へ出入りしている。エンジンの音もしなければ浮いてるのでタイヤと地面が擦れる音もしない。車が沢山いるのに不気味なまでに静かだった。
車に乗って15分程だろうか。いくらたっても役場にたどり着かない。凛は頭のなかに疑問符を浮かべていたが、ある結論にたどり着いた。
「ちょっとでかすぎでしょ...」
役場は先程のお店に負けない、いや更にもっと大きい建物だったのだ。
さらに10分後、東京タワーと同じくらい高くない?と思ってしまうほどの役場にようやっとたどり着いた凛は入り口から中に入った。
役場の中はとてもシンプルだった。目の前に大量のエレベーター。それぞれどこまで行くかが書いてある。凛はその中から「住民課」を選び、中にはいった。
静かに動き出したエレベーターは次第に速くなり猛スピードで上に昇っていく。
何秒たっただろうか。凛はエレベーターから見える外を眺めていた。地上がどんどん小さくなっていく。さっきのお店も眼下に見える。
ピン、と音がなりドアが開いた。外に出ると、何人かの人とたくさんのロボットがせわしなく働いていた。そしてそこに「外国人帰化手続」と書かれたスペースがあった。
凛は迷う事無くそこへ歩いて行く。そして受付のロボットに打ち合わせ通りに話しかけ、手続きをやってもらうことになった。
「手続きを始めます。書類を載せてください」
言われたとおりに書類を載せ、同時に写真を撮られる。この世界は盗撮し放題なんじゃない?と不安になってしまう凛だった。
そして、ロボットは奥の方に行ってしまった。ARHMDを持ってないので番号の書かれた紙を渡された。
しばらく待っていると番号を呼ばれ、カウンターを見やると女性が待機していた。
凛はカウンターに行き、これまた打ち合わせ通りに話をすすめる。
しばらく話していると、登録が終わったらしく、たくさんの書類が出てきた。
「ARHMDがあれば紙の書類はいらないんですが、持っていないとのことでしたので書類を作製いたしました。住所が決まり次第またおいでください」
そう言われながら書類を受け取り、役場を後にした。
「やっと戸籍が手に入った...」
疲れた心を吹き飛ばすがごとく、凛は来た時に乗った車に乗って再びお店を目指した。
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