2-2-2) 過去と未来

GW毎日更新二日目。腕が痛いです...w

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「ここ、私と同じ世界の"未来"だ...」


そう確信した凛は、とりあえず生年月日を言われた通りに入力し直し、アカウントを作成した。そしてもう一度手を画面に乗せ、硬貨の査定をお願いする。


査定をお願いしている間にお店にあるインターネットサービスを利用し、情報を集める。

しかし凛が使っていたようなPCなどあるはずもなく、AR-HMDと呼ばれるAR装置を利用して使用する仕組みしか無かった。


「すごい、そういえばみんなこんなのをつけてたなぁ」


入り口でじろじろ見られた時を思い出す。見る人見る人みんなが同じ装置を耳にかけていた。


凛はAR-HMDを耳にかけ、起動してみた。

簡単な位置調整とピント調整の後、視界上にたくさんのオブジェクトが浮かび上がる。


「うわ〜すごい!」


独り言が多い凛だが、この時は驚きのあまりいつも以上に独り言を連発していた。

操作は簡単で、オブジェクトに手で触れるだけ。実際に触れるわけではないが、カメラがその情報を読み取ることで空気中に浮かぶオブジェクトを操作できるのだ。


そしてインターネットにアクセスし、元の時代と同じ検索サービスが残っていることに少し驚きつつ、200年前から今までの歴史を調べた。200年というのは長いもので、凛のいた時代から200年前と言うと、ナポレオンが活躍していた時代である。


調べていくうちに自分が飛ばされる前の年から数年で宇宙戦争が始まったことに驚き、もしかしたらこれが原因なのかもしれないと考えた。


「宇宙戦争...メネス?お母さん大丈夫かな...」


また、その戦争がキッカケで脳波の研究が大いに進んだこと、各国の被害が甚大だったにも関わらず日本は被害が小さかったこと、結果周りの国を取り込んで新しく大和皇国を建てたこと。量子コンピュータの開発、核融合炉の開発、高度3万6000kmの地点に静止軌道ステーションを作り、軌道エレベータを建造、低起動ステーションを複数建造し、各ステーションをパイプで繋いだ宇宙軌道リニアの建造、完全フルダイブ型のVR装置の開発。調べだすと止まらないほどたくさんの出来事に驚き、そして第三次世界大戦が起きてないことに安堵する凛であった。


そして最後の文、"完全フルダイブ型のVR装置"について調べ始めた。


「これってだよね...?」


凛は元の時代で読んでいたライトノベルを思い出し、心を踊らせた。もしあの物語に出てくるような装置と同じような装置だったら、絶対にやりたい。ゲームが大好きな凛はその小説を読んだ時の感動を思い出しつつ更に調べた。


「金額は...やっぱそこそこするのね〜、ゲームは...あ!!これ"どう森"じゃん!これがVRでできるの!?」


「これは"BF7"だ!こっちは..."エアライド"?あ、"スマブラ"もあるじゃん!なんでこんな古いゲームが多いんだろう?」


「"スターカミング"...なかなかおもしろそう!」


大きな声で独り言を発しつつゲームについて調べていると、後ろから声がした。


『"凛"様、査定が終わりました。専用カウンターまでお越しください』


どうやら既に3時間近く調べていたみたいだ。ロボットに付いてカウンターに向かうと、そこに居たのはロボットではなく人間だった。


「ご来店ありがとうございます。本日担当させていただくのは私、"木鉛クラウス"です」


この時代の人間と話すのは朝にあった老夫婦だけだった凛は少し緊張しつつ、話を聞いた。


「今回のお品ですが、査定の結果約200年前の硬貨だと判定されました。また保存状態がとても素晴らしく、価値がとても高くつきました」




「このお品全てを合わせて、850万円でどうでしょうか?」




「..............850万!?」


たしか、凛が持ってたお金は、万札が2枚、千円札が3枚、あと硬貨が計600円ぐらいだったはずだ。あの日はちょうどバイトの給料が入った日で前から気になっていたゲーム機を買う予定だったのだ。


それが850万円になってしまった。


さっきのロボットの話で物価がほとんど変わってない事を確認していた凛は、提示された金額に頭が真っ白になった。


「申し訳ありません、これ以上取引金額は上げられないので、この金額にご不満がある場合は取引をすることができません」


「いやいやいや、十分ですよ!?ええっと...850万でお願いします!」


「ありがとうございます。ではこの画面に手をお載せください」


凛は言われるがままにまた手を載せる。これが昔で言う署名の代わりなのだろう。


「ありがとうございます。次に、えっと、AR-HMDをお持ちでないんですね。ではこちらに口座番号を入力してください」


あ。


凛は固まった。なにせこの時代に来てからまだ半日しか経ってないのだ。タイムスリップしたことだけでも意味不明なのに、口座なんて持ってるわけ無い。


「あのー...まだ口座を持ってないんですが、ここで現金を受け取ることってできますか?」


「えっと、保護者の方はいまどちらに...?」


ヤバイ。保護者は元の時代にしかいないよ...ってかそんな質問されるとホームシックになりそうなんですが。


「今は両親は旅行へ行ってます...」


「そうですか。では両親に連絡していただけますか?保護者の確認が取れればそちらの口座に振り込むことも可能です」


連絡なんか取れるわけ無い。だってこの時代には居ないんだもの。


「連絡にはこのAR-HMDをお使いください。使い方は分かりますか?」


どうしよう。ホームシックに加えて店員に変な人扱いされそうで辛い。どうやって切り抜けよう...




木鉛は目の前の少女に違和感を覚えていた。


古臭い服装、桁違いに保存状態のいい昔の硬貨。そして生まれてすぐに作成されるはずの口座を持ってない。AR-HMDも着けてないし、連絡取ってと言っても俯くだけ。


まさか両親は既に亡くなってる...?だとしたらものすごく申し訳ない事をしてしまったな...


この硬貨は家宝だったりして。でも保護者がいない子は、国が保護して責任持って社会人までサポートするはずだ。AR-HMDもしっかり買ってもらえる。


俺はいまだに小説を読むのが好きだ。好きなジャンルにタイムトラベルという現代の少年少女が昔の時代に飛ばされる系がある。もしかして、その逆じゃないか?と勘ぐってしまう。


...まあそういう話は妄想上の話であって、脳波が解明された今でさえタイムトラベルはできない。変な妄想は脳の隅におしやって、目の前の少女をもう一度見た。





凛は覚悟を決めた。嘘なんて付いても得られるものなど無い。失わない物はあるかもしれないが、今の凛に失うものなど既に無かった。


「私、実は...」




「過去からやってきたんです」

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