2-1-3) 農業と洞窟探索2

「おぉ〜すご〜い!」


拠点の屋上に行ってみると、黄金色の小麦が一面に実っていた。とりあえず目の前の小麦を手に取ろうとする。取ろうとすると小麦が自然とひと纏まりになって"ここを持って引っこ抜け"とでも言わんばかりな形になる。そのまま小麦を文字通り"引っこ抜く"と、小麦を採取できた。そのままストレージに投げ込む。俺は小麦を引っこ抜いては投げ、引っこ抜いては投げを繰り返した。意外と面白い。


「ああ、カイ兄だけずるい!私もやるー!」


ロゼもそう言って収集を始めた。初めてだからなのだろうが、ロゼも楽しそうにやっている。

一通り引っこ抜くと、そこら辺に落ちている種を拾う。拾うといっても近くを歩くだけで回収できるから便利だ。そして再び種をまいた。


「これで少しは食料が手に入ったね」


「クラフトしてパン食べよう!」


ロゼはウキウキしながらハシゴを降りていった。俺も後を付いて行く。

確か小麦を横に3つでパンができるんだよな。

ロゼもそれは知っていたらしく、早速パンを作っていた。


「そういえば食べる時ってどうするんだろう...?」


「確かにそうだな。実際に食べるとなると腐肉なんかは最悪だよなぁ...」


そんなことを言いつつ回収した小麦をすべてパンにする。すると視界の右側、いつも決まって解説をしてくれる場所に食事についてのアドバイスが書いてあった。


"食事は直接口に運ぶことでできますが、『食べる』と念じることでも食べることが可能です"


なんと、時代はハイブリッド!


「カイ兄、ハイブリッドは死語だよ...」


「心のなかを読むんじゃない」


しかしこれで腐肉の心配は無くなったわけか。流石にゾンビのお肉はそのまま口に入れたくはないからなぁ...よかったよかった。


「じゃあお腹すいてきてるし...いただきます!」


「俺も...いただきます」


ロゼと一緒にパンを食べる。パンは中指の長さほどで二口で食べきれる大きさだった。そして...


「これ美味しい!」


「ここまでおいしくする必要あったのか...」


「思ってたよりも柔らかいし甘い!」


「......そうか!このテクスチャにしたからかな?」


だって動画とか見てるとどう聞いても固いパンを食べているような音しか出てないんだもん。これは予想外。


「............そうみたい。今調べたけど"パンはデニッシュ風な食感、味にしてあります"だって」


「そう言われるとデニッシュだな、これ」


デニッシュパンは大好物だ。あの柔らかいがさくさくしている食感、バターの染みこんだ味...何をとっても最高だ。

こんな美味しいものをこれからずっと食べられるのか...なんていうか最高だ。


パンが思いの外美味しかったがまだまだやるべきことはたくさんある。


「結局そんなにパンできなかったね〜」


「小麦3つで一個だからな」


「耕地広げないとだね」


「じゃあ拠点の裏に農場作るか〜」


拠点の裏は林になっている。ここを切り開いて農場を作ることにしよう。

大きさは...一回の収穫で小麦1スタックぐらいがちょうどいいかな?

8×8で作ればいいね。


「真ん中に一直線に水を引いてその左右四列を8マス分開拓だ」


「ちょっと待ってカイ兄、いきなりそんなに言われても覚えられない」


「これぐらい把握できるだろ...」


しかたがないので先に枠を作って、ロゼには耕す作業をやってもらう。

いい感じに8×8の耕地が完成した。しっかりと種もまいておく。


「これで食糧問題はしばらく大丈夫だな」


「もっとパン食べたいな〜」


満腹度が満タンになるとパンが食べられないらしく、ロゼは文句を垂れている。食べようとすると手から消えてしまうのだそうだ。




拠点に入ってまずやるべきことは鉄鉱石の精錬だ。せっかく手に入った鉄も精錬しなきゃ使えない。かまどの近くで念じるとGUIが出てくる。上側に鉄鉱石を、下側に石炭を置くと自動で精錬が始まるのは作業台と同じ。後は放っておけば勝手に最後までやってくれるから便利だ。


鉄を精錬しているうちにアイテムの整理をする。敵を倒した時にドロップしたアイテムが沢山だ。


「弓はどう使うんだろう」


「とりあえず撃ってみなきゃだよ、カイ兄」


「じゃあ、あの木につけた松明を狙うか」


外に出て近くの目標に向かって弓を構える。


「そういえば矢はどうするんだ......っと!?」


矢を出そうと考えた瞬間右手の上の空間に矢がぽんと出てきた。それを掴むと俺は弓をつがえた。


「なかなか便利だな......お、ポインターが出るのか」


「え?私には見えないよ?」


「弓を構えてる人だけに見えるのかね」


ポインターを目標の少し上に持ってきて、矢を放つ。

そこまで力はいらず、思った通りに飛んでくれた矢は、松明に命中した。


「すごーい!初めてでよく当てるね〜」


「動画でコツを教えてくれたからな」


そう。俺はMinecraftをやると決めてから結構実況動画を見ていた。ノイマン型の時代のMinecraftだから参考になるかは分からないが、少しでもつまづかないように...と。


しかし...


結局俺がハマっていたのは所謂"PvP"動画だった。サーバにみんなで接続してみんなで戦いをするというやつだ。多分VRMinecraftでもじきにそのようなサーバが出てくるだろう。FPS好きなロゼもやりたがるだろうしその時は俺もやってみたいものだ。

結果サバイバルの知識はこれといって身につかず、戦闘のコツやさっきみたいな弓のコツなどばかりが身についてしまった。さっきの洞窟探索だって10体以上を相手にあそこまで戦えたのは動画で得た知識のおかげだ。

しかし俺はそんなことは言わずに笑って過ごした。




食料パンを手に入れた俺たちはダイヤモンドを目指して再び洞窟に探索しに行くことにした。まずはエンチャント台という物を作るのだ。

これまた動画とNaryからの受け売りなのだが、Minecraftには"エンチャント"なるシステムが存在する。どんなシステムかというと、アイテムに"特殊効果"を付与するというものだ。例えばピッケルに"効率強化"の特殊効果を付与するとピッケルで掘る時の速さが早くなる、という具合だ。


ただ、一つ気になるのが今のMinecraftのシステムでどうやって対応させるのか、だ。VRのMinecraftではピッケルを手に持って直接石を叩いていて、スピードは自分で調節可能なのだ。筋力やスタミナの概念は一切なく、自分の意志でゆっくり掘ったり早く掘ったりすることもできる。

このシステムでどうやってエンチャントの効果を表すのだろうか。とても気になって仕方がない。


鉄の剣、鉄装備一式、パン、松明、鉄ピッケルと石ピッケル、水を汲んであるバケツ、木材と土を持って洞窟に再突入した俺達は一回目の探索よりも更に深く、奥へ奥へと進んでいった。入り口からして巨大だったこの洞窟は奥深くに行っても相変わらずで、迷路のように入り組んだり上からモンスターが降ってきたり、初めての洞窟探索には荷が重すぎる場所だった。しかしPvP動画を漁りまくった俺やFPSの大好きなロゼはそんなこともお構いなしに湧き潰しを進め、安全地帯を広げていった。


「ああ〜、どこに行っても終わりが見えないよ〜」


「流石に松明が無くなりそうだ...木材を持ってきておいて良かった」


「しかもお目当てのダイヤモンドも見つからな...ん?」


「ん?なんだ?」


「ねえカイ兄、あそこ......」


そう言ってロゼが指差したところは、溶岩でうめつくされた、地下にできた溶岩湖だった。

その溶岩湖の上に見間違うことのない、ダイヤモンド鉱石があったのだ。


「あった!ダイヤモンドだ!」


「でも...どうする?溶岩で危ないけど」


「そのためにバケツを持ってきたんだ」


そう言ってインベントリからバケツを取り出した俺は溶岩に対して水を流した。

溶岩に触れたところから真っ黒なブロックに変化する。


「すげ〜」


「溶岩は水に触れると黒曜石になる性質があるんだよね」


「さすがカイ兄、良く知ってるね!」


そんなの全部受け売りだよ、と言いながらダイヤに向かって歩き出す。ダイヤモンド鉱石は思ったよりも固くなく、簡単に採掘できた。これでダイヤモンドが6つだ。


「まずは6個ゲットだ」


「2つはエンチャントに使うとして...あと4つは何に使おう?」


「エンチャントテーブルには黒曜石が必要だ。黒曜石を掘るためにダイヤピッケルが必要だな...」


「じゃああと1つかー」


一個じゃスコップぐらいだな、と話してたら...


「あれ、カイ兄」


「ん?」


ロゼは更に溶岩の奥を指差して俺を呼ぶ。

俺がその指差す先を見ると、ダイヤモンド鉱石がひょっこり溶岩から顔を出していた。


「あれも回収する?」


「危険だな...どうするか」


「わかった、私の荷物預けるから取ってくる!」


「あ、おい待て!」


俺が呼び止めるのも遅く、俺の足元にアイテムをばら撒くと装備も捨て鉄ピッケル一つと足場用の丸石数個だけ持って行ってしまう。

そして...






「さすが私」


「流石に心臓が持たなかったぞ...」


「ごめんごめん」


ハハハと笑いながら謝るロゼにアイテムを返す。

ロゼは見事足場を作ってダイヤモンドを採掘することができたのだ。しかし...


「2つは落ちちゃったかー」


「ちゃんと足場を広げればよかったものを」


「次から気をつけます〜」


3つあったダイヤモンドのうち、回収できたのは一個だけだった。

結局手元にはダイヤモンドが7個。2つはエンチャントテーブル、3つはダイヤピッケルに使うとして...


「2つ残ったかー」


「ロゼの剣にすればいいかな」


「お、私にくれるの?」


「俺が持ってても使いこなせないよ」


「それじゃあお言葉に甘えて」


早速作業台を設置して剣を作成するロゼ。初ダイヤのクラフトはダイヤ剣だった。またダイヤピッケルを作成して目の前にある黒曜石を数個確保しておく。

そこからは...


「そいや!」

「へぃあ!」

「とぅ!」

「うりゃあ!」


......ロゼが初めてのダイヤ剣に張り切りすぎて俺は後ろで弓を撃っているだけだった。

結局ダイヤはこの7つだけで後はレッドストーンと金と鉄と石炭のオンパレードだった。レッドストーンは地味に嬉しい。これでいろいろなギミックが作れるのだ。理系の学校に通っている身として、いろんなギミックは作ってみたいものだ。

帰り道も湧き潰しのできてないところは潰しつつ、鉱石を片っ端から掘っていった。


こうして洞窟探索第二回目はダイヤ7つという成果を上げることができたのだった。


帰った後農場の小麦を見てみたら、しっかり成長していてパンの供給も安定しそうだ。

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