気づかなかった片想い

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気づかなかった片想い  


笠原智樹かさはらともきの心情




 桜の蕾がだんだん膨らみ始め、もう二週間程度で満開を迎えようとしていた。僕ら中野市立南小六年生も、明日の三月十八日で、この小学校を旅立とうとしていた。さて、今の時代、小学生同士が付き合っていても不思議ではないと思う。事実、僕の学年にも、そういう関係の人は三、四組くらいはいる。僕にも好きな人くらいいる。一年くらい前に転校してきて、それからずっと好きで常に頭の中に浮かんでいる。顔が可愛い。スタイルが良い。頭もいい。運動もできる。性格がとげとげしい。(僕はこういう人がタイプ)パーフェクトな人だ。だから、すごくモテる。やばいくらい。クラスの半分くらいその菜々という人が好きだった。で、何回も告白されているのを見た。ちょっと羨ましい。でも、オッケーしたのは見たことがない。僕 、智樹もその中原菜々が好きなクラスの半分に入っていた。しかし、今まで幾度となく男を振ってきた人だ。どうせ、僕が告白しても断られるのは目に見えていた。だから、この一年間思いを伝えたことはなかったのだ。唐突だが、僕は明日、彼女に告白する。明日は卒業式でこれを逃したらチャンスはなくなる。

まあ、結局振られるだろう。でも、僕は私立の中学校に行く。つまり、中学校は離れ離れになる。だから思い切って告白してみることにしようと決めたのだ。



中原菜々なかはらななの心情


 私の大好きな花「桜」が、もうすぐ咲こうとしている。だけど、私は満開の桜をこの学校で見ることはできない。私たち南中六年生は、明日卒業を迎えるからだ。それと同時に私の初恋も終わってしまうのか。私にも好きな人くらいいる。笠原智樹。転校してきた時から、ずっと好きだった。かっこいい。優しい。私が智樹を好きな理由は転校して間もない頃のある出来事がきっかけだった。私がまだこの学校に慣れていなかった頃、優しく声をかけてくれたこと。隣の席の時、私が帰った後忘れた宿題を持ってきてくれたこと。外で遊んでいて怪我をしてしまった時保健室に連れて行ってくれたこと。私が智樹にときめいていた思い出は数え切れない。智樹は中学受験をし、私立の中学校に行ってしまうのだ。だから、告白するタイムリミットはあと二日。同じクラスにも、付き合っている人もいる。つまり振られるとしても、

「まだ、そういう歳じゃなくない?」

と言われる可能性は低いと考えたのだ。一年前から告白しようと思っても、結局言えなかった。たとえ、付き合えなかったとしても、気持ちを伝えられれば本望だ。じれったい。もどかしい。照れくさい。この気持ちはなんだろう。


笠原智樹の心情


 長い長い卒業式が終わり、帰りの準備を進めていた。僕は、中原を屋上に呼び出した。

「ねえ、あのさ。」

僕の声と中原の声が同時に響いた。

「あ、先どうぞ」

僕は譲った。そのうちに心の準備を整える。自分が呼んだけど、いざ、告白するぞ、となるとやはり緊張する。心臓がバクバクしている。

「私、智樹が好きなの。でも、智樹は親鸞中に行くんでしょ。だから、その前に言いたいことがあるの。」

このとき、初めて両思いに気がついた。中原の顔は真っ赤っかになっている。

「私と付き合ってください」


中原菜々の心情


 卒業式が終わり、帰りの準備をしていると智樹に呼び出された。え、どうしよう。これじゃ私が告白するタイミングがない。智樹の話を聞いて、えと、えーと、えーと。あ、そうだ。今言えばいいんだ。よし、頑張るぞ。

「ねえ、あのさ。」

かぶってしまった。

「先どうぞ」

私が呼ばれたのに先に言っていいのかなと思ったものの、気持ちが早まり、私は遠慮できなかった。

「私、智樹が好きなの。でも、智樹は親鸞中に行くんでしょ。だから、その前に言いたいことがあるの。」

「私と付き合ってください」

顔は赤くなっているだろうが、止められなかった。返事を聞くこともできずにこう言った。

「で、智樹の言うことってなぁに。」


笠原智樹の心情


 動揺が隠せない。まさか、中原は僕のことが好きだなんて。女の子に告白させちゃいけない。僕の口からも言わないと。

「ごめんなさい」

「え、ダメなの」

菜々は勘違いしていた。いや。僕が勘違いさせてしまった。あー、馬鹿だ。あ、え、えーとそっちのごめんじゃなくて。

「女の子に告白させて、ごめんなさい。僕から言います。こんな僕ですが付き合ってくれますか。」

よし、言えた。返事はすぐに返ってきた。

「はい、喜んで。」

よっしゃー。

「教室戻ろう。」

「うん。」

眩しいくらいの日差しに見送られ、手を繋いで僕たち「カップル」は教室に戻っていった。










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