レッドゴブリン


 ──浦島太郎は、竜宮城にいたままの方が幸せだったのではないか。

 日本人の多くが、そう思うことだろう。

 故郷にある幸せを求めて帰ってみたら、そこにあるはずの幸せは、すでに失われた後だったのだから。

(そんなのは、ごめんだよな)

 ミツキに「元の世界に戻りたい?」と問われた時、リョウは首を横に振った。そして、彼は「この世界で生きていくさ」と続けたのだ。

 いつまで経っても恋人ができなかったら、元の世界に戻りたくなるのかもしれないが。もっとも、戻ったところで恋人ができるとは限らないけど。

「これ、美味いな」

 リョウが食べていたのは、栗のような見た目の木の実。それを蒸したものだ。見かけによらず、皮は薄くて柔らかい。そのため、皮ごと食べることが多いようだ。

 レッドゴブリンに邪魔をされ、収穫に影響が出ているとか。

「味と食感は、ジャガイモとカボチャを足して2で割った感じか。料理のしがいがあるやつだ」

「勇者様、お料理が趣味なの?」

「趣味っつーか、料理人を目指してたんでな」

「それで、包丁を持ってたんだね。包丁でモンスターを倒すなんて、勇者様が初めてかも! すごい!」

「それほどでも……あるかな!」

「さすがは勇者様!」



「ゴォォォッブリンンンゥゥゥ……!」

「こいつがレッドゴブリンか」

 普通の緑色のゴブリンは、子どもくらいの身長。それに対し、レッドゴブリンは大人の倍はある。緑色の3倍くらいの大きさだ。

 巨体ゆえか、発せられるのは轟くような唸り声。

 手にする武器は、トゲと長い柄がついた鋼の球──モーニングスター。

 これまでに薙ぎ倒してきたゴブリンとは、比べ物にならない強敵だろう。

 だが──。

 レッドゴブリンの凶悪な顔を見たリョウは、不敵に笑った。

「行くぞ、エクス」

 鞘から包丁を抜く。エクスカリバーにちなんで、そう名付けたのだ。

 最初は「エクスカリボーチョー」という名前にしたのだが、心なしか技の威力が落ちたため、改名することになった。改名したら、技の威力が戻った。

「ゴブリンゥゥゥッ……!」

「にらむなよ、デカイの。ママのおっぱいが恋しいのか? 待てよ……。そもそも哺乳類なのか、こいつ」

 ゴブリンの胸には乳首がなかった。オスにないだけで、メスにはあるのか。それ以前に、オスやメスという区別があるのだろうか。

「ゴブリンの乳首は見たいと思わないな……。ミツキのなら……」

 離れた場所で見守っている少女に目を向けると、手を振ってくれた。よもや、青年が自分の乳首のことを考えているとは思うまい。

 とりあえず、スマイルで手を振り返すリョウだった。

「ゴブリンッ!」

「おっと!」

 転がってモーニングスターを躱したリョウは、素早く立ち上がる。

「オレが捌いてやるから感謝しろよ! レッドゴブリン!」

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