白き刃に導かれし勇者


 リョウがレッドゴブリン相手に勝利を収める頃──。

 同じ国の別の場所に、ある日本人青年が立っていた。

 魔法陣の中央で、美青年が目の前の少女に問う。

「君が、僕を喚んだのか」

「はい。僭越ながら、あなた様を召喚させて頂きました。巫女のアユナと申します」

 巫女ということは、彼女が纏うのは巫女装束なのだろう。その形状は、日本の巫女が着るものと似ている。

「僕はタクマだ。肩書きは……『しがない大学生』かな。ところで、僕は日本語を話しているはずだけど、君が話しているのは……?」

「サクラミヤ語でございます」

「サクラミヤ……。それが、この国の名前か」

「はい」

「僕には、サクラミヤ語が日本語に聞こえている。これは、召喚の影響なのかな?」

「サクラミヤ語と日本語は、ほぼ同じ言語だと聞いております」

「そういう事か……。僕の他にも日本人が?」

「はい。この世界には、何度か日本人の方が訪れています。この世界の知識や技術の中には、異世界からもたらされたものも少なくないのです」

「なるほど。彼らも召喚されたのか」

「この世界を訪れる方法は、その方によって異なります。穴を通った方、あちらの世界で命を落とした方……。召喚される方は、特殊な力を持った方でございます」

「僕が召喚されたのは……?」


「あなた様が、白き刃に導かれし勇者様だからです」


「勇者? 僕が?」

「はい」と首肯した巫女は、「これを」と青年に剣を渡した。柄も鍔も鞘も白い長剣である。抜けば、白い刃が見えるはずだ。

「僕に剣を渡して大丈夫なのか? 君を殺すかもしれないのに」

「勇者様が召喚者である巫女を殺めれば、元の世界・元の時間に還る事が出来ます」

「……つまり、僕が君を殺せば……」

「はい。元の世界・元の時間に還る事が出来ます」

 平静を装っているのだろうが、彼女の手は震えている。その震えは、タクマにも見えていた。

「……脅すような事を言った。すまない。君を殺すつもりはないから、安心して」

 その言葉に、安堵の息を漏らすアユナ。タクマは、胸中で「日本には、あまり未練もないから」と付け足した。

「……アユナ。いくつか質問しておきたい」

「はい。何なりと」

「白き刃に導かれし勇者……。それは、この剣に選ばれたという意味なのかな?」

「はい。聖剣は、持ち主を選びます。時として、異世界の方を選ぶ事も」

「なるほど……。君は、僕とこの剣に、何をして欲しい?」

「世界を救って頂きたいのです」

「世界を?」

「はい。魔王が復活するというお告げがありました。勇者様には、復活を阻止して頂くか、復活した魔王を滅ぼして頂きたいのです。そのためなら──」

 アユナが巫女装束に手をかける。

「アユナの心と体、勇者様に捧げます」

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