召喚の巫女


 巫女の少女が「アユナの心と体、勇者様に捧げます」と言ったものだから、タクマは少し動揺していた。

「……体……も……?」

「はい」

 偽りの言葉ではないと言う代わりに、アユナが巫女装束をはだける。この世界の下着は、水着に近い質感だった。もしかしたら、下着ではないのか。

「アユナ、何を……!?」

 彼女を止めるべきだったのかもしれないが、思わず、青年は見てしまう──。

 胸の深い谷間を。

 そして今、乳房の先端の桃色突起が見えた。

(僕は何を見ているんだ!)

 彼の理性が視線を逸らすも、アユナの巨乳と乳首が目に焼き付いてしまっている。

 胸ばかりに目が行っていたため、アユナの顔が真っ赤になっていることには気付いていなかった。

 理性が勝ったところで、彼の本能は反応したままだ。彼女に気付かれないよう、さりげなく股間を隠す。

「申し訳ございません……!」

 アユナの声が聞こえた。

 ついさっきまで赤かった顔が、今度は少し青ざめている。アユナの震える手が、その胸を覆った。

「……お見苦しいものを……」

 どうやら、タクマの機嫌を損ねたと思ったようだ。

「見苦しくなんかない」とタクマが言うが、彼女の声は震えたまま。

「それでは、どうして……。アユナの体を見て頂けないのですか」

「それは……」

 タクマは困惑した。正直、どうするのが適切なのかは彼にはわからなかった。この青年は童貞なのである。

 そのため、それらしいことを言うので精いっぱいだ。

「巫女は、純潔の乙女じゃないとダメなんじゃないのか」

「召喚の巫女は、そうでなくてはなりません。ですが、アユナの召喚の巫女としての役目は、先程終わっています。勇者召喚の術式は、生涯に1度きりのものなのです」

「だからと言って、初対面の男に肌をさらすのか」

「……はしたないと、お思いですよね」

「……いや。驚きはしたが、軽蔑はしていない。教えてくれ、アユナ。どうして、僕に胸を……?」

「勇者様をこの地に留めておくのが、今のアユナの役目でございます。勇者様のお力は強大です。敵に回す事だけは、避けなくてはならないのです」

「……なるほど(それで、色仕掛けか)」

 大昔から、男を懐柔するためには「金銀財宝」「地位や名誉」そして「女」が有効だった。この世界でも同じだろう。

 アユナのように美しい娘が召喚の巫女を任されているのも、そういう理由からなのだろうか。

「お願い致します」

 懇願する声にタクマが少しだけ視線を遣ると、アユナが土下座をしていた。

「アユナ……!」

「どうか、お力を……。お力を、お貸し下さい!」

「アユナ、顔を上げてくれ。僕でよければ、君の力になる」

「本当ですか……?」

「ああ。だから、顔を上げてくれ」

「勇者様……!」

 アユナが顔を上げる。キレイな乳輪が見えてしまい、青年が目を逸らした。

「……服も着てくれると助かる」

「申し訳ございません! お見苦しいものを……」

「いや、見苦しくなんかない。キレイ……だった」

「え、あ、はい、あう、その……」

 湯気が出そうなくらい顔を赤くしながら、アユナは巫女の姿に戻った。

「……キレイと言われたのは、初めてです……」

「そ、そうか」

「家族とお医者様以外の殿方には……初めて見せました」

「……そこまでして、僕を引き留めようとしたんだな」

「……はい。ご迷惑……でしたよね」

「迷惑じゃないさ。ただ……その、なんだ。君の裸を見てしまった以上、男として、責任を取るべきかと思う」

「責任……でございますか」

「ああ」

「アユナ。君さえよければ、僕の妻になってくれないか」

「え? あ、はい。はい? え、あの、その……!」

「いやならいいんだ。忘れてくれ」

「いやじゃないです! あの、でも……。アユナでいいのですか?」

「僕が勇者で、君が巫女だった。運命だと思うのは、僕の勘違いかな」

「アユナも、運命の出逢いだと信じております……! 勇者様……!」

「名前で呼んでくれないか」

「はいっ。タクマ様」

 ふふっと微笑んだ少女が、自分と青年の小指を見つめた。

「アユナの運命の赤い糸は、異世界に繋がっていたようです」



 後に、タクマとリョウは邂逅を果たす。

 その舞台となるのは、巨大なドラゴンが暴れ狂う戦場だった──。

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