初クエスト
異世界では、水は井戸か川で汲むものだと思っていた。
電化製品なんてものはないと思っていた。
ところが、美少女──ミツキが言うには、水道も電気もあるらしい。
異世界での生活は、それほど不便ではなさそうだった。
テレビやラジオ、ケータイなどはないそうだが。インターネットもないので、パソコンはワープロのようなものか。
「ミツキは、巫女だったりするのか?」
勇者は巫女がいる儀式場に召喚されるもの──そういうイメージがリョウにはあったのだが……。
ミツキは首を横に振った。
「私は、ただの一般人だよ」
「勇者が世界を救う……。そういうお告げがあったんだろ?」
「そのお告げを授かったのは神官様。巫女さんじゃなくて、男の人」
「この世界は、どういう状況なんだ? 魔王でもいるのか?」
「魔王が復活するかもしれない……。そう言われてるの。そのせいか、最近、モンスターが強さを増してて……」
「そうなのか……。ここに来るまでにゴブリンを15体くらい倒してきたけど、みんなザコだったぞ? 一撃で倒せたし」
「ゴブリンを一撃……! さすがは勇者様!」
どうやら、すごいことだったようだ。
例のコインは換金してもらえるらしく、ミツキ曰く「高級なステーキが5枚は食べれる!」くらいの金になるとか。意外とワイルドな例えだった。
(今度、ミツキに高級なステーキを食わせてやろう!)
検証の結果、光の刃を撃てるのは、リョウを導いた包丁だけだった。
その包丁から光の刃を撃ち出すのは、リョウにのみ可能だった。
ミツキは「さすがは勇者様!」と喜んでいた。勇者マニアなのだろうか。リョウは「この笑顔を守りたい」と思った。だって、美少女だし。
検証の際にゴブリンを倒したので、またコインをゲット。
(高級ステーキに高級ライスをつけてもらおう)
この街の顔役だと言う男が、コイン回収中のリョウに言う。
「その勇者の力を見込んで、頼みたい事があるのだ」
(記念すべき最初のクエストか!)
意気込むリョウは、包丁を握る手に力を込めた。なお、この包丁に合わせて、鞘を作ってくれるとのこと。砥石も、高級なのを用意してもらえることになっていた。
「この勇者に、何をしてほしいんだ?」
リョウが、少しカッコつけた。
「ゴブリン退治だ」と言われて拍子抜けした。
「ゴ、ゴブリン……? もっと強敵じゃなく? ゴーレムとかドラゴンとか……」
「君に倒して欲しいのは、ただのゴブリンじゃない。レッドゴブリンだ」
「赤いゴブリンがいるのか?」
「赤いゴブリンは、普通のゴブリンよりも高い戦闘力を持ってるの」
「緑の3倍くらいか」
「もっとだと思うよ。小型のドラゴンよりも強いくらいだもん」
「……小型のドラゴン、もっと頑張れよ……」
かくして、リョウはレッドゴブリン退治を引き受けることになったのである。
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