勇者


 ゴブリンがザコなのか、包丁が優れているのか。あるいは、優秀なのはリョウの方だったのか。

 包丁を振るうと光の刃が飛び、一撃でゴブリンを屠るのだ。

 この技は、2体めのゴブリンを倒した時に「光刃斬」と名付けられた。

 しかし、3体めを倒した後に「煌刃斬」と改名。読み方は「こうじんざん」のままで変化なし。

 ところが、7体めを倒す時に「シャイニングスラッシュ」と叫んだので、またしても技名を変更。

 さらに、同時に現れた12体めと13体めを倒した後、「シャイニング・スラッシュ」と改めた。

「……ゴブリン以外のモンスターは出てこないのかよ」

 今、第15のゴブリンを一撃で消滅させたところだ。

 使った技は、光刃斬改め煌刃斬改めシャイニングスラッシュ改めシャイニング・スラッシュである。

「うん? あれは……!」

 歩き続けて30分ほど。ようやく、小さな街が見えてきた。

「でも、日本語が通じるのか? 英語とフランス語とイタリア語なら、ほんのちょっとは話せるけど……」

 料理人養成学校での講義で、フランス語とイタリア語を少しだけ勉強したのだ。料理人の中には、フランスやイタリアに留学する者も多い。

 リョウは和食の料理人になるつもりだったので、本格的な勉強はしていなかったのだが。英語は高卒レベルである。

「とにかく、あの街に行ってみるか!」

「ゴブゴブゴーブリンッ!」

「シャイニング・スラッシュ」

 ズバシュッ!

「ゴブッ……リン…………」

 コインを回収し、街に向かって走り出す──。



 よくよく考えてみれば、街中で抜き身の包丁を持っている自分は不審人物のようではないか。

 そう思ったリョウであるが、それは杞憂だったらしい。

 この世界で最初に出会った人間(美しい少女)が、リョウを見て目を輝かせているのだ。

「あなたが、白き刃に導かれし勇者様!?」

「白き刃に導かれし勇者?」

 白い光を発した包丁に導かれて、この世界にやって来たリョウである。異世界でも日本語が通じて助かった。

「確かに、白き刃に導かれたかもしれないな」

「やっぱり! お告げの通り!」

「お告げ?」

「うん。白き刃に導かれし勇者様が、世界を救ってくれるって……!」

「お告げとか世界を救うとか、まるで勇者じゃねぇか!」

「勇者様なんだよね?」

「いや、オレは……」

 料理人(になる勉強中)だと言おうとしたが……。

「勇者様じゃないの……?」しゅん……

「ゆ、勇者だ!」

「やっぱり、勇者様なんだね!」ぱあっ

「そ、そうだ! オレが、白き刃に導かれし勇者だ!」

 男はやはり、美少女に弱いようである。

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