異世界


 リョウが目印にしていた岩は、遠くからでも見えただけあって、大きな岩だった。

 その岩の前に何かがいた。岩に背を預け、寝ているようだ。

「あれは……?」

 人ではない。2本の腕と2本の脚があるが、人ではない。

 その「何か」は、肌の色が緑だった。草原の色に溶け込んでいたため、近付くまで存在に気付かなかったのだ。

 リョウの気配を察知したのか、その「何か」は目を覚まし、ギョロリとした目で若者を見つめる。

「ウギィ……」

 唸るような声を発した「何か」は、棍棒を手にして立ち上がった。のん気にも、リョウは「豚のもも肉で作った生ハムの塊みたいだな」と思った。

 それから一拍分の間があって。

「こいつ、ゴブリンじゃねぇの!? いや、オークか!?」

「ゴーブリンッ!」

「こいつ、ゴブリンだわ!」

 棍棒を振り回すゴブリンに近寄られ、リョウは走り出した。

「ゴーブリンッ!」

「つーか、ゴブリンはゴブリンって鳴くのかよ!」

 それなら、オークはオークと鳴くのか。

 いや、今はそんなことを考えている暇はない。RPGならばザコキャラだろうが、あの棍棒に打たれて自分が平気とは思えなかった。

 しかも、距離が縮まりつつある。

「こっち来んじゃねェッッッ!」

 近付かれないよう、包丁を横薙ぎにして威嚇。それほど意味はないだろうとは思いながら。

 ところが──。

 ズバシュッ!

「ウギアッ!?」

「……へ?」

 胸に生まれた一文字の傷から血を噴き上げ、ゴブリンが倒れた。

 リョウが斬ったのだ。

 正確には、リョウが振るった包丁から飛んだ光の刃が、ゴブリンの胸を斬り裂いたのである。

 致命傷だったのだろう。RPGのようにゴブリンの姿が消え、残ったのは数枚の銅色のコイン。コイーンと音がした。

「……オレはゲームの世界にでも迷い込んだのか……?」

 とりあえず、コインは回収しておいた。

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