草原


「……いったい、どうなってるんだ……!?」

 リョウは草原に立っていた。

 遠くには岩や木が見えるが、周囲は緑一色。

 空はと言えば、キレイな青色が広がっている。

「青空……!?(寝る前に包丁を研いでいたはずだから、今は夜のはず……! それに、ここはどこなんだよ!?)」

 周囲に人影はない。建物もない。包丁を研いだら就寝する予定だったので、スマホも持っていなかった。

(東京じゃなさそうだな……。そもそも、日本なのか? この包丁が光った……んだよな……?)

 包丁を見るが、今は光ってはいない。日差しを受ければ光を反射するが、包丁自身が発光している様子はなかった。

 隅々まで確認したが、普段通りの包丁だ。

(……包丁を研いでいる内に眠っちまって、夢を見てるのか?)

 試しに自分の頬を引っ張ってみた。痛い。

 試しに自分の頬をつねってみた。やっぱり痛い。

「夢じゃない……んだろうな」

 草の感触や匂い。

 そよ風の心地よさ。

 慣れ親しんだ包丁の手触り。

「夢にしちゃリアルすぎる。何もかも」

 だとすれば、なおさら。

 こんな場所にいるという事実が、最も現実味がない話だった。

「……包丁が光ってワープした? いや、テレポート? どっちでもいいけど……。お前さんよぉ、高い包丁だと思ったら、魔法の道具か何かだったのか?」

 話しかけてみても、包丁は答えてくれない。

「こういう時くらい、しゃべってくれてもいいのになー……。教えてくれよ、ここはどこなんだ?」

 やっぱり、何も言ってはくれなかった。

「……ここに突っ立ってても、何も始まらないよな」

 リョウが歩き出す。大きな岩を目指すことにした。あれの上からなら、何か見えるかもしれない。

 何かを目印にしなければ、真っすぐ歩くのも難しそうだ。

 それほどまでに、リョウがいる草原は緑一色だった。

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