包丁


 若者は、リョウという名だった。

 彼自身は「料理」の「料」だと言い張っていたが、あるいは、「料理人」の「料」だと言い張っていたが──。

 名付け親である父によると、漢字で書くとすれば「亮」らしい。漢字で書くのが面倒だったらしく、戸籍上は「リョウ」という名前になった。

 リョウは、料理人を志す若者だった。

 名門の料理学校に入学し、ライバルたちと切磋琢磨の日々を過ごした。時には、ライバルとタッグを組み、課題をクリアしたことも。


「いつか、日本一の料理人になるんだ──!」

 決意を胸に、包丁を研ぐリョウ。

 包丁の手入れを怠っては、立派な料理人になどなれっこない。使う時になって切れ味の悪さに気付いても、それでは遅い。研ぎたての包丁で切ると、食材が金属臭くなってしまう。

 ──包丁を研ぐことは、料理人の心を研ぎ澄ますこと。

 リョウが通う学校で、ある講師が口癖のように言う文言であった。

「これで……よさそうだな」

 研がれた包丁が、光を反射する。

 その輝きに満足したリョウは、金物臭さを取るために、包丁を水に浸そうとした。

 その時である。包丁が白く煌めいたのは。

 明かりを反射したのではない。

 包丁自身が発光していたのだ。

「いったい、どうなって……!?」

 その輝きはいつしか、リョウを飲み込むほどに広がっていた──。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る