包丁
若者は、リョウという名だった。
彼自身は「料理」の「料」だと言い張っていたが、あるいは、「料理人」の「料」だと言い張っていたが──。
名付け親である父によると、漢字で書くとすれば「亮」らしい。漢字で書くのが面倒だったらしく、戸籍上は「リョウ」という名前になった。
リョウは、料理人を志す若者だった。
名門の料理学校に入学し、ライバルたちと切磋琢磨の日々を過ごした。時には、ライバルとタッグを組み、課題をクリアしたことも。
「いつか、日本一の料理人になるんだ──!」
決意を胸に、包丁を研ぐリョウ。
包丁の手入れを怠っては、立派な料理人になどなれっこない。使う時になって切れ味の悪さに気付いても、それでは遅い。研ぎたての包丁で切ると、食材が金属臭くなってしまう。
──包丁を研ぐことは、料理人の心を研ぎ澄ますこと。
リョウが通う学校で、ある講師が口癖のように言う文言であった。
「これで……よさそうだな」
研がれた包丁が、光を反射する。
その輝きに満足したリョウは、金物臭さを取るために、包丁を水に浸そうとした。
その時である。包丁が白く煌めいたのは。
明かりを反射したのではない。
包丁自身が発光していたのだ。
「いったい、どうなって……!?」
その輝きはいつしか、リョウを飲み込むほどに広がっていた──。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。