その手に包丁を:異世界編

煌木咲輝良由花

プロローグ


「金を出せ……! 金を出せェッ!」

 男の叫び声。

 その手には包丁を握っている。

 場所はコンビニ。

 コンビニ強盗というやつだった。

「早くしろ!」

 強盗が包丁を横に薙ぐ。威嚇のつもりだろう。

 フルフェイスのヘルメットで顔は隠しているが、動揺までは隠せていない。強盗に慣れていないのだろう。初めての強盗なのかもしれない。

「金を出せってのが聞こえねぇのかァッ!?」

 強盗が、今度は包丁を突き付けた。しかし、へっぴり腰では、包丁で相手を刺せるのかどうか。

「あのさー、お客様」

 レジにいる若者は、包丁の切っ先が自分に向いていると言うのに、のん気な声を出した。

 強盗は、「お客様」と呼ばれて「へっ?」と変な声を出した。

「おおおおおお俺は強盗様だ、こらー! お客様じゃないぞ、こらーっ!」

「どうでもいいんだけどさー……」

 ぼりぼりと頭を掻いた若者が、その表情を引き締める。

「包丁は、料理をするためにあるんだ──」

 若者の拳が、包丁を弾き飛ばした。

「ほあっ……!?」

「人を傷つけるためのものじゃねェッッッ!」

「ぶぶへェェェッ!!」

 ぶん殴られた強盗は、商品のガムテで拘束され、パトカーに乗ることになるのだった──。

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