第35話 降伏

 勝負の決着がいよいよつきそうであった。


 言継は自身の魔術具の能力を結界系の能力であることを認めようとしないが、冷静であった言継の様子が急に変化したことから正行らは結界系であると判断した。


 そして、正行らの考察は実に正解である。


 言継の魔術具の能力は結界系である。


 自分の半径5m以内に結界を張ることで、結界内で起きる事象を自分に都合の良いように書き換えることができる。それが言継の魔術具であった。ちなみに言継の魔術具の本隊はどこにあるのかというと彼の左手にある腕時計が本体である。結界の張る範囲もうで道警によって調整することができる。


 自身に都合の良いように事象を書き換えることができるその能力はかなり強力である。



 「くぅ」



 言継は押されていた。


 正行らに能力がバレてから戦い方が変わったからだ。


 まだ、結界系であることしかバレていない。しかし、正行の観察眼にかなり警戒をしている。いずれ、自身の能力の発動範囲や方法などもバレてしまう。そのような警戒から思うような戦い方ができていなかった。



 「いけえええええ」



 「くらいなさい」



 源二郎と詩織が立て続けに攻撃をする。


 言継は、2人の攻撃を持ち前の才能で何とか防いでいたが、かなりきつくなってきていた。



 「はぁはぁはぁ」



 かなり消耗したのか息が荒くなっていた。



 「さっさと降参しなさい」



 「赤城団の団長を出しな」



 詩織、源二郎は言継に降伏を勧告する。


 だが、言継は諦めようとしない。



 「ふふふ、私が降伏すると思いか」



 「しないでしょうね」



 「しないだろうな」



 2人は冷静に返答する。



 「だったら、どうにかしてくださいよ!」



 正行は、2人が冷静に返答するものだからついツッコミを入れてしまう。



 「まあまあ」



 美緒がそんな正行を諫める。



 「大丈夫だよ」



 「そうだな。そろそろ時間だしな」



 詩織、源二郎の2人はなぜかすごく楽観的であった。そして、大丈夫。時間。その言葉に正行は違和感を覚えた。


 何が大丈夫なんだと。何が時間なんだと。


 その答えは、まだ正行は知らなかった。だが、すぐにその全貌が明らかになっていく。



 「……そろそろ、か」



 言継からそんな言葉が聞こえた。


 何がそろそろなのか。正行は言継の言葉にも違和感を覚える。



 「よお、言継。かなり厳しい状況じゃないか!」



 山の上の方から男の声が聞こえてきた。


 かなり豪快な男だということは分かった。



 「誰だ!」



 正行はとっさに叫ぶ。


 その声に正行は覚えがなかった。自分の知っている人物ではない。それだけは言える。



 「……」



 「……」



 その声に源二郎と詩織の2人は黙っていた。誰なのかわかっているようであった。


 その男の正体。それは──

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