第25話 戦前
「さあ、戦いしかお前らには活路はないぞ」
言継が正行らを追い詰める。
正行と言継に実力差がある。それを正行は理解している。なので、戦いを避けたい。でも、言継はそのことを理解しているからこそ挑発的に出てきている。
──逃げるか。
正行の脳裏に思い浮かんのは逃げるという選択肢であった。
勝てない。絶対に勝てない。そう思っているからこその選択肢であった。
「……」
正行は、無言で美緒を見る。
美緒は、戦う気でいるのかどうなのか。正行は美緒の様子を判断する。
美緒も正行を見る。
アイコンタクトをしてきた。何か正行に伝えようとしている。これは、美緒は逃げようと伝えているものと正行は判断した。
「どうした。何か打ち合わせでもしているのか?」
言継が正行らに言う。
─やべえ。
正行は、そう感じた。
何をしても見透かされているような気がした。
「いや、もう決めた。覚悟は決めたぞ」
正行は魔術具に手をかける。ブレスレット型の魔術具である正行のものだ。
そして、魔術具の解放を行う。
「覚醒せよ、上毛の山々よ、守護せよ群馬の神々よ我の力この時発動せん魔術具解放!」
魔術具はブレスレットだったのが、解放により漆黒の刀へと変化を遂げる。
「ほお、それがお前の魔術具か」
「ああ、これが俺の魔術具だ」
「いいだろ、正々堂々と戦うというのならば全力でこい!」
言継は、正行が戦う覚悟を決めたことを心より喜んでいる。正行にはそう見えた。
─こいつは、戦闘狂なのか。
そんな疑念も正行には出た。もし、戦闘狂、戦闘をすることが好きな人間であればかなり手ごわい。ますます自分が勝てる未来が想像できなくなっていた。
─無理難題だ。どうやってこの絶望的な状況を脱出すればいいんだか。
正行は、思案していた。考えなきゃ勝てるような相手ではないように思えた。ただ、戦闘狂でもあり頭もさえているように言継は思えたので知恵でもかないそうにない。どうしたものかと考える。
そして、考えている時にあることにきづいた。
─あれ? 美緒はそう言えば?
正行の意識は美緒からだいぶ離れていた。
言継もずっと俺をまっすぐに見ていた。その間美緒は一言も言葉を発していなかった。府議に思えた。
さっきまで美緒がいた場所を正行は横目で見る。
すると、
「いなあああああああああああああい」
正行は大声を発してしまう。
驚いたからだ。それと怒りからだ。
さっきまでいたはずの美緒がいなくなっていた。
「おかしい、どうして、どうしてだ」
美緒は逃げていた。
言継の意識が正行にいっている一瞬を使ってこの場から離れていた。姑息なことを美緒はずっと考えていたのだった。
「ほお、もう1人は逃げたか。まあ、いい。彼女を逃がしてあげるなんてなんて優しい男だ」
「か、彼女じゃない」
言継に美緒のことを彼女と表現されたことで正行は動揺する。
─いや、確かに美緒はかわいいから彼女だと間違えられるのはうれしいけど……って、そんなことを今は考えている場合じゃない。俺の頭はかなりどうでもいいことばかり考えていた。
正行は邪念を払おうとする。煩悩が多すぎる。どうでもいいことを考えてしまっていた。
「まあ、いい。さあ、戦いに参ろうか!」
正行と言継の戦いがここに始まった。
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