第3話 美久
正行は急いだ。仕事の依頼が来た以上しっかりと仕事をしなければいけないからだ。正行は一度自分の部屋に戻るなんていうことはせずに真っ先に依頼のあった場所へと向かっていく。ただ、その移動方法は全速力のダッシュであった。正行は足を使って思いっきり走る。しかし、他の歩いている人から見るとその姿は異常に見えたのかもしれない。いや、他の人から見たら正行の姿を見れたものなどいないだろう。なぜなら、正行の走っている速度は走っている車と並走するほどの速さであるからだ。だから、普通の人であったならば隣をものすごい突風が吹いたなあぐらいのことしか思えていない。現にいま正行が通り過ぎたところをたまたま歩いていたサラリーマンのおっさんは「?」と疑問に思った顔をしたが何だ風かと勝手に1人で解決するとそのまま職場に向かって歩いて行ってしまった。
そういうこともあり今の正行は自分の正体がばれることなく思う存分に走った。走った。走って走った。そうして走ること約10分。正行は現場に着いた。正行が着いた現場というのは大きなドーム状の建物の前であった。
その建物の名は緑のドームという。ここ前橋を拠点としている野球のチーム群馬クリスタルフォークスの│本拠地≪ホーム≫であり、そのほかにも某有名声優の全国ツアーやイベントを行うことにも使われる。そんな前橋市民にはゆかりのあるスポットであったが今日はいつもと様子がおかしかった。緑のドームを囲むように白と黒の装飾が施された車──すなわちパトカーが赤いランプを照らして停車しており警察官の人たちもみな緊張した顔をして待機をしていた。
正行はそんな緊迫した緑のドームへと近づいて行った。
「おい、そこの学生。危ないから離れなさい」
緑のドームに近づいていく最中警察官に正行は止められた。しかしながら、正行は自分の身分を表すカードを警察官に見せるとその警察官の顔色は一瞬で真っ青へと変化を遂げて「すみませんでした」と頭を下げてから正行の元を離れて行った。
正行は緑のドームの入り口付近に作られた仮設の作戦本部へと足を動かす。
「正行です」
正行は自分の名前を名乗って仮設の本部の中に入る。仮設の本部ということで運動会で使用するようなテントに机と機会があるだけの本当に何もないような場所である。
正行にとってはその光景などいつものことなので大して気に留めようとはしない。
正行が仮説の本部の中に入ると奥の方から1人の女性がやってきた。
「お疲れ」
身長は170センチと女性にしては高い方であり、体型も痩せていると思えば出るとこは出ていて女性だということをきちんと強調している。女性としては最高の体系である。しかも、顔もいい。いわゆる美人といっても良いクラスである。美女コンテストにでも出れば優勝することは間違いなしというほどの要望を持っている。この女性こそが正行をここまで連れてきた正行の所属する組織である妙義団団長木村詩織である。
「詩織さんお疲れ様です。で、例の獲物はどこですか?」
正行はさっさと仕事を終わらせたいのが本音であるので、獲物の場所を聞く。
「獲物はこの緑のドームの敷地内にいる。というよりも、中かな」
敷地内。つまりは普段は客などを入れるスタジアムの中ということだと正行はすぐに察した。
「じゃあ、さっそく行きます」
正行は詩織にそう言うと、すぐさま緑のドームのドーム内に入ろうとする。しかし、そこで正行は詩織に申し訳なさそうにあることを言われる。
「あの、正行君。ちょっと、悪いんだけどね。早くしないとまずいよ?」
「何がまずいんですか?」
正行は当然のように質問をする。何がまずいのかわからないからだ。詩織はもし分けなさそうに正行にそのわけの説明をする。
「実はね、もうすでに正行君が来る前にほかのメンバーが討伐を始めたんだけど……」
詩織が言いづらそうに話をする。
そこで、正行は気が付いてしまった。どうして詩織がこんなに申し訳なさそうに話しているのかということをだ。
「ああ、わかりました。つまりはいつものあれですね」
「ええ、いつものあれよ」
正行はあきれた表情で詩織にすべての事情を理解したことをアピールする。すると、詩織の方も理解してくれたことに安堵してかそのとおりであると正行の言葉に対して肯定の返事をする。
正行は、詩織の元を離れて緑のドームの中に入る。
中に入ると目に入った光景は……地獄絵図であった。
正行の目線の先に存在していたのは人間を襲う存在である異界生物の無残な死体であった。その数は1体や2体という少数ではなく何十もの異界生物の死体が目の前に広がっていたのであった。
「くそ、間に合わなかったのか」
正行は目の前の状況を見てついそんなことを口に出してしまう。
「あれ? 正行今更来たんだ」
正行は目の前の地獄絵図の状況をぼぉーと見ていると、後ろの方から女子に声をかけられた。
正行はその言葉を聞いて後ろの方に振り返り、その女子の名前を呼ぶ。
「……美久」
谷野美久。それが彼女の名前である。彼女もまた正行と同じように異界生物を討伐する組織妙義団に参加しているメンバーの1人である。正行と同じ学年であるが、通っている高校は別の効率女子高である。しかしながらその関係は、正行の同僚とも戦友といってもいい存在である。
「正行、全く遅いよ。おかげで私1人ですべての異界生物を倒す羽目になってしまったじゃない」
ちなみに彼女の実力は組織内でもトップクラスである。
彼女は、笑顔で先ほどまで戦っていたことを思わせないほどの笑顔で正行に声をかけている。正行はそんな美久を見て自分との実力差と経験などすべてのことを比較したうえで驚きあきれて思わずため息が出てしまうのであった。
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