第4話 戦い

 さて、正行はこの状況に対してため息をついていた。

 美久が1人で異界生物を片付けたことはもう終わったことだしいいと感じていた。しかし、問題はそこからであった。


 「正行、遅刻だよ」


 美久はそう言い放った。

 正行としてはこれでも十分急いだほうである。そもそも遅刻と言われる筋合いがないだろうと思いっきり言いたかったのが本音だ。しかしながら、正行は知っている。ここで美久に口答えをしたとなるとどうなるかということを。女子は恐ろしい。それを今までの経験から正行は知っている。だから、正行はおとなしく従うことにした。


 「連絡が来るのが遅かったから遅れた。これでも結構急いだんだぞ」


 「ふーん。まあ、いっか。じゃあ、後片付けはよろしくね。私これ以上動くの嫌だし」


 美久はそんなことを言う。

 美久が言う後片付け。その意味というのは……


 「ぎゃあおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 2人の後ろから奇怪な叫び声が聞こえてくる。この存在に2人ともすでに気が付いていた。

 白い色をした虫のようなそして確かに虫ではない気持ちの悪い形相をした生物。触手を持っておりくねくねと体を動かしている生物。すなわちこれが異界生物である。

 群馬で大量に発生する異界生物。この生物を倒すために正行たちの組織は結成された。


 「まったく、後片付けを俺に任せるなよ。はあ」


 正行は、美久の言葉を聞いて軽くため息をついた。

 そして、異界生物に目を向ける。


 「後片付けか。くそめんどくさいぜ」


 正行はそう言うと、腕にはめてあるブレスレットに手を当てた。

 そのブレスレットは赤と黒の色で塗られておりブレスレットの上の方にはだるまが描かれていた。正行はそのだるまが描かれている部分に手を当てたのだった。


 「覚醒せよ、上毛の山々よ、守護せよ群馬の神々よ我の力この時発動せん魔術具解放!」


 そう言って正行はブレスレットを真の姿へと変える。

 ブレスレットは解号を唱えることによって刀へと姿を変えた。

 漆黒の刀。

 名前は義顕という。

 この刀の名前の由来は、俺の住んでいる町渋川市を昔領地としていた渋川氏の初代渋川義顕からとられたものだ。

 余談だが、この渋川氏は足利氏の血縁の中でもかなりの地位におり、将軍にもなる可能性があったとかなかったとか。実際には吉良氏、今川氏が将軍になる資格があったとされている。一方の渋川氏の方は、九州探題として室町幕府を支えることになるが戦国の世が来ると家臣の少弐氏、大内氏に攻撃され滅亡することとなる。

 さて、話を戻そう。この正行の刀にはどのような力が眠っているのか。その答えはこれから起こる正行の戦いぶりから読み取ることができる。


 「ク字型流奥義二型桐壷芽!」


 正行は刀をまっすぐにもつ。そして、そのまま暴れている異界生物に向かって突進する。

 突進する際に徐々にスピードが上がっていく。その速さは完全に常任ではありえないほどの速さだ。人間としての限界を超えた速さで走ることで正行は体に風の抵抗をまとう。まるで、巨大な台風が突進しているように見える。

 異界生物は触手をくねくねさせているだけだ。

 理性など存在していない。正行はそのことを知っている。奴らは動いているだけ。ただ、何かを壊すだけの意志しか持っていない。それ以上の戦略など何もない。

 頭脳がなければ怖くない。あえて怖いのはその力である。それさえ警戒すれば大丈夫。正行はそう思っている。

 警戒しさらに圧倒的な強さを持つ正行の前に異界生物は為すすべもなく倒れていく。

 1体、2体と倒れていく。

 倒すごとに緑色の液体が正行にかかっていく。


 「き、きたねえ」


 それは、異界生物の血であった。

 美久が何で正行に片づけを頼んだのか。その理由の中でも最も大きくそしてどうでもいい理由。さらに女子らしい理由というのが、これにある。


 「だって、汚れたくないじゃん。あの緑色のドロドロした液体。あれだけは無理。気色悪い。あんなのに触れた暁には私もう戦いなんかしたくないからね」


 これが昔美久の言っていた理由だ。

 これを聞いたときに正行はかなり呆れていたがそれを口にしたときに自分がどんなに目に合うのかわかっているので口にするのを我慢していた。


 「まあ、俺が戦うしかないのか」


 半ばあきらめている正行がいた。

 それに戦うことで異界生物が倒すとバイト感覚で給料がしっかりもらえる。倒した数、サポートした点など複数の要素を客観的に見て月の給料が決まることになっている。なかでも、倒した数というのはもっとも判断しやすい基準であるので正行の戦いにおけるやる気に満ち溢れていた。


 「はあああああああああ」


 気力で刀を振るい続ける。攻撃を食らうことなく右へ左へ避けながらとどめを着実にさしていく。

 そして、正行が10体ほど倒して周りに生存している異界生物は消えていた。


 「ふう、こんなところか」


 正行は、刀をしまう。


 「お疲れ様」


 美久が正行に近づいてくる。


 「ああ、お疲れさ──」


 「ぎゃごおおおおおおおおおおおおおお」


 正行は美久に近づこうとしたときに、未来の後ろから異界生物のおぞましい声が聞こえる。

 正行はまだ、生き残りがいたのかと思う余裕がなかった。気づいたときに美久に迫っていた。


 「あ、危ない!」


 正行は叫ぶ。

 美久の首元に異界生物の触手が迫る──

 

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