3、夜の闇と招かざる客《6》
あの夜の襲撃から、三日ほど経った、夜のこと。
マリーは、自分専用の執務室で、書類整理に追われていた。
◆◇◆◇◆
(ふぅー、忙しい忙しい……)
マリーは心の中で、呟いた。
手元の書類を高速斜め読みしつつも、今やらなければならないことを、順々に整理していく。ついでにいつもの二倍、三倍の速度で羽根ペンを滑らす。
近衛軍の将軍の通常業務(机の上でやる仕事と演習)に加え、ジークハルトに頼んだ外交官見習い辞職の件の手続きもしなくてはならないため、マリーは今、とても忙しかった。
事実、マリーの執務机の上には、それこそ徹夜しても終わらないくらいの仕事量がある。
マリー自身、かなり多忙な身であるため、徹夜はよくすることだ。もはや、恒例化していると言ってもいいくらいに。
もともと、マリーはあまり睡眠を必要としない。だいたい四時間程度あれば十分なのだ。
しかし、
だがマリーは、そんな伯父たちの心配など気にかけようとはしない。それどころか、むしろ長い睡眠をとる必要がなく、他の人よりもたくさん仕事が出来て良いくらいに思っているのだ。
そんなこんなで結局、マリーは誰かが無理矢理にでも夢の国に強制送還させない限り(それは大抵、龍輝伯父がやる)、ほとんど睡眠を取ろうとしなかった。それは、ほんの僅かな休息も。
皆、なぜマリーがそこまで寝たがらないのかは、知らない。マリーも理由を語ろうとはしない。
しかし、何となく事情があるのかなと思ってはいた。
閑話休題。
そんな超多忙なマリーの頭の中は、いつも以上の速さで回転していたのだが。
マリーはふと、三日前の刺客のことを、思い出した。
(あの刺客たちは…………牙を剥く暗き狼たちではなかったようね。でも、それにしては強かった。一体どこの手の者なの…………?)
暗殺者を送ってきそうな人物候補を挙げてみるが、両の手の指以上に出てきたので、途中でやめた。いかんせん、敵という敵が多すぎて、誰が犯人なのかはっきりと特定できそうにもない。まあ、多分シャルル叔父の息のかかった者であったのだろうけれども。
ちなみに、“牙を剥く暗き狼”とは、シャルル叔父の子飼い暗殺集団のことである。通称、“狼の牙”。フロシア王国の闇社会でも、その名前だけで闇の住人をも震えさせるという、屈指の実力を持つ刺客たちだ。
彼らは、事あるごとに、マリーとフランソワの暗殺を企て、夜の闇で暗躍している。マリーにとってはまさに、仇敵とも言える者たちだ。
そんな暗殺者に狙われるようになって、早五年ほど。
正直に言って、マリーも辟易していた。よく飽きないな、と。
一応、誤解のないように弁解しておくが、
やってもせいぜい、全治約三ヶ月ほどの怪我を負わせるくらいだ。
しかし、今回の三人は、相当な手練れであった。
それこそ、マリーが少しでも気を抜けば、命を奪われていたくらいに。
だから。
(…………もっと、気を引き締めていかなければ、ならないわね)
マリーは、心の中で新たな決意を固めた。
何よりも大切でかけがえのないものを、護るために。
たった一つの約束を、守るために。
それが、叶うのなら。
(私は、悪魔になっても構わない)
そんな彼女の決意を、三日月は静かに見つめていた。
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