1、お見合い話は突然に?!≪7≫


 本日二度目の衝撃発言をもろに食らったは、しばらく呆然ボーゼンとした顔で、天井を眺めていた。

 ちなみにこの男二人とは、李親子のことである。

 一方、この話題の中心人物であるマリーは、石のように固まってしまった伯父たちを見つつも、伯父がお茶と一緒に出してくれた茶菓子を一人、黙々と食べていた。

 ああ、これじゃあ駄目だ。このままでは役に立ちそうもない。

 私は頭の中で作っていた、『私のアマリス行きを阻止してくれそうな人』名簿から、この二人の名前を消した。

 それにしても。

 あ~あ、片手で数えられるぐらいしかこの名簿には名前が載っていないというのに。

 残念。っというか、残念以外の言葉が出てこない。

 私がそんなこと考えて、密かにため息をついていた時。

 コンッコンッ、と誰かが執務室の扉をノックする音がした。

「はいっ」

とほぼ反射的に返事をした私は、扉の方に駆け寄る。

 いつもなら伯父や従兄あにが出て対応してくれそうなものだが、彼らは今、いっそ見事なほど石化している。だからしばらくは使いものになりそうにもない。

 そんなわけで、そっと扉を開けた私は、

「で、殿下⁉」

王女わたし自ら出てきたことに驚く官吏見習いの少年に、

「どうしたのです?何かありましたか?」

と少しだけ微笑んで尋ねた。

「え、えっと………。その、外務大臣様が、殿下のことを呼んでおられます」

 まだ、見習いになって日が浅いのだろう。少しだけ、もじもじとしながら外務大臣の言伝ことづてを伝える若い少年の姿が、なんだか可愛らしい。

 マリーはほんの少し、目を細める。 

 しかしその表情とは裏腹に、彼女の頭の中にはこんな疑問が浮かんでいた。

外務大臣あのお方が………………? なぜ、こんな時間に私を呼ぶ? ………………まさか、もう、この話を耳にしたのか?)

 マリーの頭の中に、ぼんっと外務大臣という男の顔が浮かんだ。……………まさかね。

 まぁ、仮にそうならば、早く彼の元に行かなくてはならない。厄介ごとが一つ増えたな。

 マリーはすぐに、気を引き締めるように目元をぐっとあげて、目の前にいる少年にこう告げた。

「わかりました。すぐに参りますと、外務大臣に伝えて。あなたは、行きなさい」

「はい」

 そのまま、少年は丁寧に一礼する。そして、真っ直ぐに来た道を歩いていった。

 その姿を見送った後、私は静かに扉を閉めた。

 その後。

 石化から《復活》した伯父たちと少し会話をし、私は伯父の執務室を出た。

「ふぅ………」

 思わず、小さな溜息をついてしまった。

 大変なことは、時に待ったなしでやってくる。こちらの都合も考えずに降ってくるから、本当に迷惑なものだ。

 でも今は、そんなことを長々と言っている場合ではない。

 だから、行こう。

 そう思った私は、顔をあげる。

 そして昼下がりの王宮の廊下を一人、ゆっくりと歩き出したのであった。



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