1、お見合い話は突然に?!≪4≫


 マリーは現在、近衛軍の三ノ将軍を務めている。

 マリーが国王から将軍の位を授かり、将軍になったのは十六歳の時。

 普通、どんなに騎士としてすぐれた者でも、将軍になるのは二十を越えてからだ。だから、将軍になった時は大層騒がれた。

 あまりにも異例すぎたらしく、王は、『マリー王女殿下が、国王陛下の第二王女様であられ、その弟君ーフランソワ・ド・フロシア王太子殿下に次ぐ王位継承権第二位を持つ御方でも、それはなりません!陛下、もう一度お考え直しください!』と、側近たちにさんざん言われたらしい。  

 が、そんな反対意見をいう者は、すぐいなくなった。

  なぜなら、そんな意見を言えなくするような―――黙らせるような実力を、マリーが彼らに見せつけたからだ。

 そんなことで今では、反対意見をいう者はいなくなったのである。

 


◆◇◆◇◆



 ここは大将軍―――マリーと龍斗リュートの上司の執務室前の廊下。

 龍斗がコンッコンッと、執務室の扉を軽く、ノックした。

「失礼します、大将軍。龍斗です。マリー殿下をお連れしました」 

「入りなさい」

 間もあけずに、部屋の中から答えが返ってきた。

 その声を聞いた後、龍斗が重い扉をガチャっと押した。

 重い扉が、開いていく。

 それと同時に、マリーの視界も開けてくる。

 そんなマリーの目に、よく見慣れた姿が映った。

 彼の名は、 龍希リューキ

 マリーの同僚、龍斗の父にあたる人物だ。

 彼はマリーと龍斗と同じ、黒髪と黒い瞳を持つ。風貌は息子の龍斗にそっくりだが、彼は肩まで伸ばした黒髪を後ろでしっかりと一つに束ねている。

 その実力は、フロシア王国一おうこくいちで最強。

 マリーには計り知れないほどの強さを誇るため、彼の本当の実力は、はっきりと分からない。

 そんな上司の座る、執務机の前に二人は来た。

「大将軍、お呼びとは何ですか?」

 大将軍の前でまず、マリーが口を開く。

「そうですよ、大将軍………いえ、父上。なぜ、殿下をお呼びになられたのです?」

 続いて龍斗も、口を開いた。

 そんな二人の部下の顔を見た彼は、

「まあ、そう焦らなくていい。…………殿下、そちらにお座りください」

 と言って、私に執務室の隣にある部屋のソファーを勧めた。

「はぁ……………分かりました」

 龍斗をわざわざ呼びに行かせたのだから、何か特別な話があったのだと思うのだが。

 少しだけ感じた違和感に首を傾げつつも、マリーは隣の部屋に足を向けた。

 


◆◇◆◇◆



 ここは、大将軍の執務室の隣の部屋。

 そこに、どこか釈然としない顔をしたマリーと龍斗が座っている。

 彼らの目の前にいる人物、李龍希大将軍は、そんな二人の『早く話を始めてくれ』と言わんばかりの視線を物ともせず、いそいそと茶器を出し、お茶の準備をしていた。

 部屋に、お茶のいい香りが広がる。

 本来ならその準備を手伝うべき二人は、呆れ半分にその姿を見ていた。

「さてと。では、話をしようか」

 そっと私たちの前にティーカップを置いた李将軍が、こう言った。

 やっと話ができる――――そう思ったマリーは、

「ええ、始めましょうか」

 と言って、頷いた。

 お茶を――――大将軍自ら淹れたお茶のカップを手に取って。

 こうして、李親子とマリーの午後のティータイムが始まったのであった。



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