第一章 六話

「それで、学院ではどういう判断に」

「その他に特に問題は見られないということで、特別編入という形を取ることにしました。まあ、一応は試験を致しますが」

 穏やかな校長と目が合うと、奴は目を細くする。

「そこでアシュレイさんにご相談が。出来れば後ろ盾があった方が、彼の為にも良いと思っております」

 悪びれも無く、無茶を言い出すのはこの男の技だ。

「わかりました。うちで預かることにしましょう。それで? もちろん学院側としてはその特例も認めていただけるのでしょう?」

 面倒なのだという態度をあからさまに出すと、校長はぺこりと頭を下げた。

「ご子息から持ち上がったお話ですし、何分前例がございません。もちろんアシュレイ家で面倒を見ていただけるとありがたいと思います。不都合ならば他家をご紹介いただくのも結構です。舎監のレヴィスタニアもそう申しておりますし、学院では出来れば彼の身はアシュレイの元に置きたいという認識になっております」

 本来であれば、聖フォーリア学院に入れられるのは一家から一人のみ。親しみを振りまくだけしか能のない息子には、あまり望みをかけていなかった。だが、どんなに特異だろうが手駒が自ら飛び込んできたのだ。これを活用しないなど馬鹿の極みだろう。

「これほど特殊な事情を他家に任せるなど、アシュレイ家の名が廃ります。私の名を持って、後見致しましょう」

 校長はうんうんと数度頷く。

「あまりお引止めしても申し訳ない。帰りに彼に対面させましょうか?」

「いえ、結構です。彼もまだ落ち着かないでしょうから。あぁ、学院をふらりと一周させていただきますよ」

「えぇ、どうぞ」

 客間を出ると、校舎の中を見て回る。授業中のため、静まりかえった部屋と呪文の詠唱などで騒がしい部屋と、様々に取り組む生徒たちを扉についた窓から眺める。

 屋上まで出て、外で授業を行っている様子を眺めていると、ぼんやりとした影が後ろに立った。

「ジョシュアさま」

 片膝を付き、すっと頭を下げる姿。

「おまえか」

「話はお決まりになりましたか?」

「馬鹿息子が拾った卵を我が家で預かることになった。くれぐれも蛇が飛び出さないよう、気を配れ」

「かしこまりました」

 珍しくこちらが立ち去る前に影が立ち上がるのを見ていると、うっすらと笑う。

「私にも授業というものがあるんですよ」

 影は失礼、と言い残して消えた。

 孵化した卵からは、何が孵るだろうか。こんな賭けのようなことをしているのは久しぶりだ。負ける気はしない。成長次第ではどう使ってやろうか、気付くとあれこれ考えている。

「なかなか楽しませてくれる」

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